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”下流老人”出版が生みだした社会的インパクトについての一考察(前編)【代表:横山】

27 9月 15
SCAスタッフ
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下流老人 一億総老後崩壊の衝撃 (朝日新書) 藤田孝典  (著)

「下流老人」の勢いが止まりません。

本書は、NPO法人ほっとプラス代表理事(社会福祉士)の藤田孝典さんの著作です。
初版部数が数千部止まりの新書が多い中、10万部(公称)を超えるベストセラーになりました。

出版不況と言われて久しいですが、10万部突破という事実がもつ意味は、社会福祉業界においても、そして、現代のソーシャルワーカーたちの技術的側面からも、考察すべき事象だと私は思います。今週から2回にわたり、「下流老人」が社会に生みだしたものについて考えてみたいと思います。


1.出版業界からみた「下流老人」ベストセラーの意味
2.社会の今を映し出した「下流老人」現象
3.社会福祉業界が、「下流老人」から享受したもの・次に考えるべきこと


<1.出版業界からみた「下流老人」ベストセラーの意味>

出版業界では、たとえば、ビジネス書の初版は4000-6000部と言われています。(福祉系の専門書であれば2000-3000がいいところでしょう。)3万部を超えればベストセラーと言われていますので、10万部という数が、出版業界においても、驚異的な数字であるということがわかります。

書籍の年間総発行部数は、1997年をピークに下降を続けていますが、それに反して、新刊の数は1997年当時6万弱であったのに比べ、現在は8万近くになっています。つまりは、毎日、200点以上もの新刊本が、出版社から書店に届けられているということですが、言い換えれば、新刊の数を増やして、ひとつでもベストセラーが出ればいいという「数打って当てる」というのが、今の出版業界のスタイルです。新書などは特に、その消費期限がどんどん短くなっていて、書店に行くたびに、平積みになっている新書が変わっているのは、そのためです。


上記のように、新書の消費期限が短くなり、ほとんどが「初版」で終わる書籍が多い中、着実に増刷を重ね、10万部を超えるというのは、半端なことではないのです。

参照)出版業界の新刊点数等について
http://www.1book.co.jp/001274.html

<2.社会の今を映し出した「下流老人」現象>

では、なぜ10万部を突破するほど「下流老人」は売れたのか?
売れる本の要素について、例えば、「著者が特定の読者層を有している」、「テーマが読者の支持を得ている」、「テーマが需要を喚起した」などと言われることがありますが、著者の人気(つまりは、この著者の本が出たら、必ず買うというファン層.村上春樹さんとかを想像してください)については、失礼ですが、職業作家ではない藤田さんに「著者としての人気がある」とは思えません。

テーマ性についても「貧困」は、特に際立って目立つものでもないでしょう。貧困をテーマにした書籍は数多く出ており、福祉業界、労働組合関係、貧困問題に対峙しているNPO界隈の関係者などの中だけで盛り上がるだけでは、これだけの部数になることはないでしょう。
(Amazonにて、貧困がテーマの書籍は2217件該当しました。)


本書がこれほどまでに売れた理由を考えるに、社会を生きる人たちの胸の中にある、
「今はなんとか生活できているけれど、今後はどうなるのだろう?」
という漠然とした不安を、「下流老人」は、社会的に顕在化、可視化させたと言えるのだと思います。

『「一億総中流」と呼ばれた社会が、「一億総下流」に近づいているのではないか?』
『自分も下流老人予備軍かもしれない』

このように思い、「ふと、手にとって、(不安を喚起され)、買った」という一般の人たちが、相当数いたのではないかと思います。それが10万部という数につながったのでしょう。(かつ、それが社会の中の「本を購入して読む層」の人たちであることを考えると、10万部という意味はより大きな意味を持つように思います)

多くの一般の人たちが「下流老人」を手にしたことを考えると、
それは言い換えれば、「購買行動→漠然とした不安の可視化」という、社会に生きる人たちの現状を映し出した、と言えるのではないでしょうか。ここ数年の社会保障に関する政策等によって人々の中に渦巻いていた不安を、顕在化、可視化した、つまりは、出版により、かつ部数が伸び、数多のメディアで取り上げられるというスパイラルが生み出されることによって、本書出版後、「貧困問題への対策」が、より喫緊の政策イシューとして改めて取り上げられる、というプロセスを経るのであれば、それは、『出版という実行案を選択し、メディアを最大限活用することによって、「貧困問題への対策を喫緊の政策イシュー化させる」』というソーシャルアクションに他ならないでしょう。


何より「下流老人-一億総老後崩壊の衝撃-」というネーミングもまた秀逸でした。「下流」というワードは、下流社会(著:三浦展)、下流志向(著:内田樹)などにより、過去書籍名に用いられてきました。それなりに売れ、当時メディアでも特集が組まれていた記憶がありますので、「一億総中流社会」と呼ばれてきた日本に住む人にとっては、今でも、反応性の高いキーワードだったのかもしれません。「一億総老後崩壊の衝撃」というサブタイトルもまた然り、です。
そして、「下流」という言葉に加え、本書の帯にもある「年収400万でも将来、生活保護レベルの暮らしに!?」という一文もインパクトがありました。(帯の一文は編集者の方が考えたとのことです)
帯の一文をみるに、編集者の方も非常に優秀な方であったのだろうと思うとともに、藤田さんが、本書をソーシャルアクションとしてとらえ、パートナーとして編集者の方をみていたのだろうと思うのです。


「下流老人」という言葉は、「ロストジェネレーション、ワーキングプア、無縁社会、ニート、老人漂流社会」など、NHKスペシャルなどが「社会的タグ」のようなキーワードを生み出してきたのと同様のインパクトを社会に与えたように思います。もし仮に本書のタイトルが「下流老人」ではなく、「貧困老人」であったら、ここまでの短期間にこのような勢いはつかなかったのかもしれません。

藤田さんのメディア露出の程度をみるに、少なくとも年内いっぱいはこの勢いは続くのではないかと思います。
(つまりは、メディア露出が、次のメディア露出を生み、それによって書籍の部数も増える循環が続きます)

それが、社会福祉業界にどのような意味をもつのか?
後編は、引き続き、<3.社会福祉業界が、「下流老人」から享受したもの・次に考えるべきこと>について、述べていきます。

<後編はこちらから>