代表コラム)なぜ、ソーシャルワーカーがソーシャルアクションを為すことが必要なのか?

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ソーシャルワーカーは誰もが暮らしやすい(活躍できる)社会を実現するため、目の前にいる困りごとを抱えた人への個別支援だけではなく、その人の困りごとを生み出している社会構造そのものへの働きかけ=『ソーシャルアクション』を積極的に実践していく必要があります。ですが、なぜ、ソーシャルアクションが必要なのでしょうか?

具体的にはどのようなことなのでしょうか?
これを読んでくださっているみなさんと一緒に、以下、Nさんのエピソードから考えてみたいと思います。

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Nさんは、豆腐屋を営む両親のもと、一人っ子として大切に育てられました。
都内大学経済学部進学を機に、実家を出て、大学卒業後は、通信機器メーカーの営業職として就職。お付き合いした女性はいましたが、結婚はせず、独身。幼少期から家族関係は良好でしたが、母親はNさんが31歳のときに末期ガンが見つかり、発見後1年ほどで亡くなりました。

母親の死後、父親から、「豆腐屋を継いで欲しいので、実家に戻ってきてほしい.一緒に手伝ってほしい」とお願いされるも、営業職の第一線で活躍しており仕事が生き甲斐であったNさんはそれを拒否、父親と言い争いになり、確執が生まれ、勘当状態となり、その後、父親とは疎遠となり、10年以上音信不通状態となりました。

数年ほど前、リーマンショックの煽りをうけ、会社の業績が悪化.当時40歳のNさんはリストラに会い、失職。失業保険の手続きをしハローワークで再就職先を探すも、なかなか見つからず、失業保険、預貯金など数か月分の生活費は徐々に目減りし、家賃を支払うことが難しくなりました。

お金を借りることができる友人知人はおらず、父親に詳しい事情は伝えずに電話でお金を貸してくれないかと聞くも「久しぶりに連絡してきたと思えば、金のことか。お前のことは勘当した。もう親子ではないと伝えたはずだ」と即電話を切られ、金の工面の目処が立たなくなったNさんは、消費者金融、闇金などにも手を出すも、その後も仕事は決まらず、アパートに取り立てがくるようになります。

 

それがきっかけで、大家から退去を強く求められたため、キャリーバックとボストンバックに収まるほどの荷物に収め、借金は踏み倒した状態で、借りていたアパートから退去することになりました。

 

その後、友人知人宅を渡り歩くが、2週間ほどで、泊めてくれる友人の宛てもなくなり、カプセルホテルやサウナで寝泊まりするも、手持ち金が尽きてきたため、日雇いの仕事を探しては、日銭を稼がなければならなくなる。日雇いで得たお金は、日々の食事(コンビニ・ファストフード)と、寝床となるカプセルホテル、サウナ代で消えていきます。

服の洗濯も3日に1回、5日に1回と、身なりは汚れ、とてもではないが、再就職活動など行える状態ではなくなりました。

再度アパートを借りるにも初期費用や保証人が必要になります。Nさんは、まずはアパートの初期費用を貯めるために、生活費を削るようになり、食事は1日1食となり、カプセルホテルやサウナの使用を止め、ネットカフェに寝泊まりするようになります。

複数のネットカフェを回ってみて、シャワーやフリードリンクがあるところ、自分と同じような状況に置かれている人たちが多く使用しているネットカフェがわかるようになり、「寝床にしている人間」を排除しないネットカフェを長く利用するようになりました。

だが、1.5畳の個室は寝返りもまともにうてません。いびきをかけば、隣のブースの利用者から壁を叩かれ、ときには隣のブースの人間のいびきにより睡眠を妨害されます。そんな環境の中、日中、肉体労働で疲れた体を休めることができず、疲労も蓄積していき、疲れを紛らわすために、酒やタバコに手を伸ばすようになり、アパートの初期費用は一向に貯まりませんでした。

入院数ヶ月前は、仕事中に意識が朦朧とすることや、胸がひどく締め付けられるようなことがありましたが、会社を辞め、健康保険証もなく、所持金も少なかったため、病院に受診はせず、生活保護も考えましたが、テレビで「若くて働ける人間は受けられない」と聞いたので、無理だろうと思っていたそうです。

そんなある夏の日、日雇いの建設現場で、意識を失い、救急車で緊急入院となりました。

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Nさんは、架空の人物です。
ですが、Nさんと同じようなエピソードをもった人たちに、福祉現場のソーシャルワーカーたちは日々出会っています。

お金がなければ、生活保護の申請のサポート。
住まいがなければ、住まい探しのサポート、など。
その人が「今まさに、困り、必要としているサポート」をソーシャルワーカーたちは、日々提供しています。

ですが、それは、傷に延々と絆創膏を張るような対処であって、それだけでは不充分なのです。

「Nさんのような人たちが、どうすればこれ以上増えないで済むのか?」

この問いを考え、目の前にいる人への支援を通じて、社会に必要な仕組みをつくっていくための働きかけが、ソーシャルアクションです。

そして、「Nさんのような人たちが、どうすればこれ以上増えないで済むのか?」という問いを考えるヒントは、福祉現場には溢れています。現に、Nさんが救急車で病院に搬送されるに至るまでの経過を、医療機関に勤務するソーシャルワーカーは支援の過程で聞くことができる立場にいます。

 

・家賃を滞納した時点で

・アパートを強制退去になった時点で

・ネットカフェに住まうようになった時点で

・生活保護も考えたが、テレビで若くて働ける人間は受けられないと聞いたから・・・

 

例えば、上記に至る前のタイミングで、Nさんに何かしらの情報やサポートを届ける仕組み(や制度)があったとしたら、Nさんは、受診を控えて、救急車で運ばれてくること(つまりは、階段を転がり落ちること)はなかったかもしれません。

 

わたしたちソーシャルワーカーは、Nさんと同じような人を増やさないために、なにができるでしょうか?

 

Nさんという人は唯一無二の個人ですが、同じようなエピソード、社会的背景を有している人を支える仕組みづくりは、Nさんという個人の事例から考えることができます。

「人生を生きていく中で、さまざまな困りごとが生じたとしても、それによって階段を転がり落ちることのない社会、もし、転がり落ちたとしても、登りやすい階段が用意されている社会」

そんな社会をつくるために、社会構造そのものへの働きかけ=『ソーシャルアクション』を、福祉現場のソーシャルワーカーたちが為していくことが必要なのです。

個人を支えることを通して、社会をよりよいものに変えていく。

この職業のミッションは、とても社会的意義のあることだと、私たちは思っています。

【ご案内】
Social Change Agent養成プログラムは、”社会福祉の現場から、社会を支え、そして、より良い社会をつくるための方法をデザインする”ためのソーシャルアクションに必要な、マインド(意識)、ネットワーク(仲間)、スキル(技術)を得るために、学び合う場です。 未来を切り開くソーシャルワーカーを志す皆さんの参加をお待ちしています!!