医療ソーシャルワーカーとは病院で働いているソーシャルワーカーのことをいいます。
Medical Social Worker を略してMSWと呼ぶことも有りますが、そう呼ぶのは日本のみです。
さて、病院で働いている医療ソーシャルワーカーとは、どんな仕事をしている人なのか?
医療ソーシャルワーカーの仕事に興味をもたれた方が、「なるほど。そういう仕事なんだな」と少しでもイメージしてもらえることを目標に、書いてみようと思います。
病院のソーシャルワーカーは、病院に勤務し、そこに外来通院、入院している患者さんとその家族の「病気になることで生じるさまざまな困りごと」の相談にのる仕事をしています。
【病気になることで生じるさまざまな困りごと】
- 入院費っていくらかかるんだろう…
- 入院して仕事を休み収入がない…生活費も心配
- 退院した後、元通り仕事に戻れるかな
- 退院した後、学校に行くのが心配…
- 病気で体が弱ってしまった…。これからも一人で生活ができるだろうか…
- 病気のことで家族との関係がギクシャクしてしまった
- 自分が入院したら、子どもを見てくれる人がいない…
- 自分が入院したら、父親(母親)を介護する人がいない…どうしよう
- 退院しても、介護が出来ない(介護をしてもらえる人がいない…)
- 誰かに話したいけれど、話せる人がいない
- 心配なことが多くて、どうしたらいいかわからない
などなど
病気になることで、起こる困りごとはたくさんあります。
そういった困りごとについて、ゆっくりとお話を伺いながら、どのような困りごとに対して、どのような方法で、解決に向けてお手伝いをさせていただくかということを患者さん家族と一緒に考えていきます。参照:医療ソーシャルワーカー業務指針(厚生労働省保健局長通知)
病院のソーシャルワーカーは上記のような困りごとについて、「患者さん家族にとって、病気や障害がその人たちの生活にどんな影響を及ぼしているのか、及ぼす可能性があるのか」ということをイメージしながら、関わり、解決に向けたお手伝いをしていきます。
以下は私の個人的な見解を図的イメージにし、まとめたものです。
【平穏な日常生活】
人の生活は、経済的安定、人間関係のネットワーク、住まいの安定、という3つの土台に支えられているのだと思います。
- 日常生活を送るに不自由ない収入・財産【経済的安定】
- 家族や友人や会社の人などの人間関係【人間関係のネットワーク】
- 安心して寝起きのできる住まい【住まいの安定】
最小単位の組織としての家族【家族というセーフティネット】
3つの土台が不安定な状態に、「病気」が大きな衝撃を与えると、より一層、生活が不安定な方向に傾いてしまう可能性が高いのです。
【突如やってきた病】
- 病気で仕事が出来ない…医療費、生活費どうしよう…。他の家族も養っていかなきゃいけないのに…
- 病気で学校に行けない…勉強が心配。同級生においていかれないか心配…
- 病気で子育てが出来ない…親も友達も手助けしてくれなそうだ…どうしよう。
- 病気で親の介護が出来ない…自分が介護してあげなければ、相手は生活が出来ないかもしれない…困った…
その人が担っていた役割の遂行が、病気により難しくなる、ということはその人にとってとてもつらいことだということが想像できます。また、病気になり役割を遂行できなくなることで、その人に支えられていた他の家族の生活に新たな困りごとが生じてくることもあります。
「自分が入院したら、妻(夫)の介護は誰もしてやれない。だから入院はしない!」
「シングルマザーの自分が家を空けたら、子どもは誰がみるの?入院なんてしていられないんです…」
そんな言葉を聞くことがあります。
そんなとき、患者さんがしっかりと医療を受けてもらい治療に専念してもらうことが出来るように上記のような困りごとに対して、医療ソーシャルワーカーはどんな手立てがあるかを一緒に考えていきます。
【病気は治ったけれど…】
病気の治療は終わったけれども、家に退院してからも薬を飲み続けたり、病気によっては一生付き合っていかなければならない病気であったり、自分の体に障害が残って生活がしづらくなったり、仕事や学校生活に支障をきたしたり、高齢の方は入院してあまり動かなかったことで足腰が弱ったり、認知症になってしまったり…誰かに日常生活上のお世話をお願いしないと一人では生活ができなくなったり…
病気への治療だけでは、なんとも解決できないことが起きてくることもあります。
医療ソーシャルワーカーが出会う患者さん家族は、まさにそんな状況にいる人たちです。
【退院後の生活に向けて】
ときに、病気や障害により、入院前と全く同じ生活には戻れないこともあります。
ソーシャルワーカーは、患者さん家族が可能な限り望む生活が送れるように、さまざまな困りごとのひとつひとつに対し、ありとあらゆる社会資源を活用して、生活を再構築していくお手伝いをしていきます。
【ありとあらゆる社会資源】
ソーシャルワーカーにとってはアイデアも人も制度もサービスも、患者さん家族自身がどう生きていきたいのかをサポートするひとつのツールであり、患者さん家族がどうしたいか、どうありたいか、どう歩んでいきたいかということをきちんと理解しようとすることが、「患者」ではなく「生活者」としてのその人たち自身ををサポートしていく第一歩なのだと思っています。
【補足:人はみな社会的な役割を有している】
患者さん家族が対峙している「現在」を理解しようとする際に、「病気や障害により、その人が担っている役割に、どのような変化が生じているか、生じる可能性があるか」ということを考えることはとても有意なことだと思います。
例えばですが、病気により就労が困難になり働く場所が奪われるということは、経済的なダメージのみならず、就労がその人の「生きがい、尊厳」であるとき、その人の「生きがいや尊厳」をも脅かす危険があるわけです。
家族を経済的に支えている
家族を精神的に支えている
社会人としての役割
学生として役割
親として役割
子どもとしての役割
誰かにとっての大切な人として
誰かを自分が支えている
誰かに自分は支えられている
病気や障害は、上記のような「役割」を遂行させえなくし、その人の「生きがいや尊厳を脅かす刃」にもなり得るのです。
その人がどうしたいか、どう生きていきたいかという未来は、その人が「何を生きがいとして、何を以って自身の尊厳を得てきたのか」という過去の延長線上にあります。そして、医療ソーシャルワーカーと患者さん家族は「現在」出会っているわけです。
医療ソーシャルワーカーは、「何を生きがいとして、何を以って自身の尊厳を得てきたのか」という、その方の歩んできた過去を教えてもらいながら、「これから先、どうしていきたいか。どのように生きていきたいか」という未来に向けて、さまざまな困りごとに対峙しなればならない「現在」に寄り添い、一歩を踏み出せるようお手伝いをさせてもらうという、出会った人の数だけある唯一無二の人生に関わらせてもらうことのできる、とても責任のある、そしてとっても素晴らしく魅力的な仕事です。
医療ソーシャルワーカーを目指す方が1人でも多く増えることを心から願っています!
*お住いの近くに医療ソーシャルワーカーがいる病院があるか調べたい場合は以下、日本医療社会福祉協会のホームページから調べることができます。ご活用ください。
日本医療社会福祉協会HP
代表理事:横山