アセスメントにおいてシステム思考を援用する-簡易事例を元にして-

ソーシャルアクションがカリキュラムに登場

つい先日、2021年度から導入される社会福祉士の新たなカリキュラムが公表された。詳細は以下厚労省のホームページを見ていただければと思いますが、添付画像の通り、社会資源開発の文脈でソーシャルアクションが明記されました。令和元年度社会福祉士養成課程における教育内容等の見直しについて令和元年度社会福祉士養成課程における教育内容等の見直しについて紹介しています。www.mhlw.go.jp

ソーシャルアクションが、戦後の社会福祉専門職の養成教育において、どのように扱われてきたのか(葬られてきたのか)については、以下に詳しいので関心がある方はご覧いただければと思います。社会福祉教育におけるソーシャル・アクションの位置づけと教育効果

私は、5年前から某専門学校で、保健医療サービスの科目を担当させていただいています(本年度で終了)

担当初年度から、医療機関勤務のソーシャルワーカーが自組織で出会うクライアントの支援を通して得た気づきから、どのようなソーシャルアクションができるかということを、事例を通して考えていただくコマを設けています。

そこでは生徒さんの様々な柔軟な思考から、様々な案が出ますが、授業を前期に行うか後期で行うかによって、出てくる案が異なるように感じています。短期養成過程であるゆえ後期は、国家試験に向けてカリキュラムに最適化された思考の枠組みにならざるを得ないと想像しますが、後期は、突飛な資源開発の案は出てくることは少なくなるのです。

本エントリを読んでいる方は、現任のソーシャルワーカーの方でしょうか、それとも学生さんでしょうか。他業種の方でしょうか。

もしよろしければ、以下の事例を読んでいただき、どんなソーシャルアクションができるか考えてみてください。

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事例を通してソーシャルアクションについて考える

Nさんは、豆腐屋を営む両親のもと、一人っ子として大切に育てられました。都内大学経済学部進学を機に、実家を出て、大学卒業後は、通信機器メーカーの営業職として就職。お付き合いした女性はいましたが、結婚はせず、独身。幼少期から家族関係は良好でしたが、母親はNさんが31歳のときに末期ガンが見つかり、発見後1年ほどで亡くなりました。

母親の死後、父親から、「豆腐屋を継いで欲しいので、実家に戻ってきてほしい.一緒に手伝ってほしい」とお願いされるも、営業職の第一線で活躍しており仕事が生き甲斐であったNさんはそれを拒否、父親と言い争いになり、確執が生まれ、勘当状態となり、その後、父親とは疎遠となり、10年以上音信不通状態となりました。

数年ほど前、リーマンショックの煽りをうけ、会社の業績が悪化.当時40歳のNさんはリストラに会い、失職。失業保険の手続きをしハローワークで再就職先を探すも、なかなか見つからず、失業保険、預貯金など数か月分の生活費は徐々に目減りし、家賃を支払うことが難しくなりました。失職した際、会社の健康保険から市区町村の国民健康保険の切り替えを行っていませんでした。

お金を借りることができる友人知人はおらず、父親に詳しい事情は伝えずに電話でお金を貸してくれないかと聞くも「久しぶりに連絡してきたと思えば、金のことか。お前のことは勘当した。もう親子ではないと伝えたはずだ」と即電話を切られ、金の工面の目処が立たなくなったNさんは、消費者金融、闇金などにも手を出すも、その後も仕事は決まらず、アパートに取り立てがくるようになります。

それがきっかけで、大家から退去を強く求められたため、キャリーバックとボストンバックに収まるほどの荷物に収め、借金は踏み倒した状態で、借りていたアパートから退去することになりました。

その後、友人知人宅を渡り歩くが、2週間ほどで、泊めてくれる友人の宛てもなくなり、カプセルホテルやサウナで寝泊まりするも、手持ち金が尽きてきたため、日雇いの仕事を探しては、日銭を稼がなければならなくなる。日雇いで得たお金は、日々の食事(コンビニ・ファストフード)と、寝床となるカプセルホテル、サウナ代で消えていきます。服の洗濯も3日に1回、5日に1回と、身なりは汚れ、とてもではないが、再就職活動など行える状態ではなくなりました。

再度アパートを借りるにも初期費用や保証人が必要になります。Nさんは、まずはアパートの初期費用を貯めるために、生活費を削るようになり、食事は1日1食となり、カプセルホテルやサウナの使用を止め、ネットカフェに寝泊まりするようになります。

複数のネットカフェを回ってみて、シャワーやフリードリンクがあるところ、自分と同じような状況に置かれている人たちが多く使用しているネットカフェがわかるようになり、「寝床にしている人間」を排除しないネットカフェを長く利用するようになりました。

だが、1.5畳の個室は寝返りもまともにうてません。いびきをかけば、隣のブースの利用者から壁を叩かれ、ときには隣のブースの人間のいびきにより睡眠を妨害されます。そんな環境の中、日中、肉体労働で疲れた体を休めることができず、疲労も蓄積していき、疲れを紛らわすために、酒やタバコに手を伸ばすようになり、アパートの初期費用は一向に貯まりませんでした。

入院数ヶ月前は、仕事中に意識が朦朧とすることや、胸がひどく締め付けられるようなことがありましたが、会社を辞め、健康保険証もなく、所持金も少なかったため、病院に受診はせず、生活保護も考えましたが、テレビで「若くて働ける人間は受けられない」と聞いたので、無理だろうと思っていたそうです。
そんなある夏の日、日雇いの建設現場で、意識を失い、救急車で緊急入院となりました。

ソーシャルワーカーは、医療費が払えない、帰る家がないNさんに対して、生活保護の申請と、アパートの確保をサポートしました。
さて、ソーシャルワーカーとして、他にできることはあるのでしょうか?

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・リストラされた時点で
・家賃を滞納した時点で
・アパートを強制退去になった時点で
・ネットカフェに住まうようになった時点で
・生活保護も考えたが、テレビで若くて働ける人間は受けられないと聞いたから・・・

例えば、上記のタイミングで、Nさんに何かしらの情報やサポートを届ける仕組みがあったとしたら、Nさんは、受診を控えて、救急車で運ばれてくること(つまりは、階段を転がり落ちること)はなかったかもしれません。

Nさんと同じような人を増やさないために、どのような、ソーシャルアクション、社会資源の開発ができるでしょうか?

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個別課題を起点に地域・社会にアセスメントの範囲を拡げる

ご覧いただいた、医療機関において出会うケースから、ソーシャルワーカーが実行すべき実践について、考えるには、アセスメントの範囲を拡げる必要があります。

例えば、以下は、氷山モデルというフレームワークを用いた「深さをもたせたアセスメント」の例です。

ソーシャルワーカーが現場で対峙する個別支援課題の多くは、「出来事」として現在化しているものです。

ソーシャルワーカーは、クライアントが抱える課題(出来事)への対処として、様々な介入を行うわけですが、メゾ、マクロ実践への接続を考えた時、言い換えれば、個人の問題を社会化するにあたり、顕在化している「出来事」ではなく、出来事を起こしているパターンや構造、メンタルモデルに目を向ける必要があります。

目に見える出来事だけに介入の焦点を当てているだけでは、対処療法から脱することができない、出来事を出現させている要因に介入することは難しくなります。

皆さんは、本事例において、どのようなパターンや構造、メンタルモデルが、Nさんに「医療費を払えない」、「退院後帰る家がない」という出来事に直面させる原因となったのでしょうか?

上記のようなことを以下研修で扱います。よろしければ是非ご参加ください。

1/18開催「システム思考-社会資源開発において必要なアセスメントの力を鍛える-」