「実践者から学ぶpt.1-2」              【Social Change Agent 養成プログラム 2018 DAY3】

今回は午前、午後の2コマを使い、“実践者から学ぶ”というパートでそれぞれ実際にソーシャルアクションの実践をされている方にお話を伺いました。2部に分け、レポートしたいと思います。

《実践者から学ぶ①》

①では NPO法人しあわせなみだ理事長 中野宏美さん から “ソーシャルアクションこそソーシャルワークの本質 ~法制度に守られた実践は福祉と言えるのか?~” というテーマでお話をお聞きしました。

中野 宏美氏(なかの ひろみ)
東洋大学大学院社会学研究科修了。社会福祉士。精神保健福祉士。

友人がDVに遭ったことをきっかけに、できることから始めようと決意。「2047年までに性暴力をゼロにする」ことを目指して、2009年「しあわせなみだ」を立ち上げる。2011年にNPO法人化。

2011年女性デープレゼンコンテスト「女性デー特別賞」受賞。2013年度東京都「性と自殺念慮調査委員会」委員。2018年AERA「社会起業家54人」選出

主な論文に「災害時の性暴力~見えないリスクを可視化する~」(自治体危機管理研究,2016)、「性暴力経験者へのソーシャルワーク実践」(日本ソーシャルワーク学会誌,2017)。

参加したわたしたち自身がドキっとしてしまうようなタイトルですが、今回のゲストの中野さんは性暴力をなくすための取り組みを続ける中で、2017年の通常国会においてソーシャルアクションによる性犯罪に関する法改正を実現させた方なのです。

社会福祉と法改正、なかなか結びつかないという方もいらっしゃるかもしれません。ですが、日々福祉の現場で働く中で、現状の制度内では理想とするサービスや社会が実現できず、もどかしい思いをされている方は多いのではないでしょうか?

そのような現在の社会制度の背景として存在するものの1つが法制度です。中野さんの実践は、社会福祉とは目の前のクライアントだけを対象にするのではなく、現在目の前に生じている社会問題の背景である、社会構造にまで働きかけることのできるダイナミックで希望のあるものなのだと改めて気づかせてくれるような内容でした。

◆刑法性犯罪改正~ソーシャルアクション事例~

中野さんは法改正実現のため、世論への働きかけを重視し、以下の取り組みを行いました。

・おかしな判例をわかりやすく紹介する冊子の作成

・どれが性暴力か?ゆるかわいいイラストを使ったクイズで紹介

・国会議員へのアプローチ

  国会議員に別の議員を紹介してもらい、多くの国会議員とつながっていく。

・大学生へ向けてのワークショップ

・SNSや動画等で法改正について拡散

・オンラインでの署名   など

どの取り組みも“法改正”という明確な目標があったからこその取り組みです。

どれだけ多くの人に関心を持ってもらえるか、

中でも実際に法改正に大きな影響力を持つ国会議員にどれだけ賛同してもらえるか。

議員さんとの関係では、特定の党に偏ることなく様々な立場の方とお話されていて、

すべての方針が合わずとも、この法改正にとって重要な方といかにしてつながるのか、

という目標に向けての戦略的な考え方が印象的でした。

◆ソーシャルアクションのポイント

それでも法改正なんて手が届かない…そんな声が聞こえてきそうですが、中野さんは法改正に至るまでのソーシャルアクションのポイントをわかりやすくご説明くださいました。

①課題を明確にする

社会を変えたい!ソーシャルアクションをしたい!

そんなとき、ついつい問題や課題を大きく捉えがちではないでしょうか?

例えば「法律が悪い」「制度が悪い」など。

ですが「法律が悪い」では具体的に何を変えたいのかわかりません。

法律の、制度のどの部分が具体的に問題なのか。

自身の取り組みたい分野において、どの課題に取り組むのか。

それを精査し、明確にすることなしにはそのために起こす行動も明確にできません。

②課題を解決するための目標を明確にする

  ~誰にでもわかる明確な目標~

課題が決まれば、次にそれを解決するための目標を定めます。

ですが、そのとき“○○がくらしやすい社会”といった漠然とした目標ではいけません。

例えば“障がい者がくらしやすい社会”といっても

バリアフリーを充実させたいのか、サービスを使いやすいようにしたいのか、

少し例をあげただけでも1人ひとり様々なイメージを抱くでしょう。

バラバラの目標をイメージしていては、なかなかうまくいきません。

チームの1人ひとりの認識に相違がないような具体的な目標を立てる必要があります。

③目標達成のための戦略を明確にする

 ~変えられるものを変えるために~

やっていてしんどい時ほど、変えられないものを変えたいと思っています。

社会にはどうしてもすぐには変えられないものも多く存在しています。

ソーシャルアクションをしたい!と明確な課題と目標を立てた後には

現実的な戦略を立てることが大切です。

中野さんの紹介していた変えられるもの、変えられないものの例です。

左が変えられないもの、右が変えられるものを示しています。

・感情→思考  ・生理→行動  ・過去→未来  ・他人→自分

現実的な戦略を立てるには、変えられるものに焦点を当てることが重要です。

しんどい時こそ立ち戻って考えたいと思いました。

また、自分の思い込みを直す5つの質問もご紹介くださいました。

1 事実に基づいているか

2 命や健康を守るのに役立つか

3 目標達成に役立つのか

4 解決に役立つか

5 好ましい気分をもたらすか

しんどい時、自身の思い込みに気づかずに誤った方向へ進んでしまうこともあります。

中野さんご自身、ことあるごとにこの質問をご自身に投げかけられているそうです。

④戦略達成のための行動を明確にする

 ~今日から自分にできること~

戦略まで明確になれば、自ずと行動は見えてきます。

でもそのときに重要なのは、まず今日自分にできることを考えること。

ソーシャルアクションという大きな目標に向かうからこそ、

一歩一歩できることからやっていく、そのような姿勢が大切なのだと思いました。

◆氷山モデルにあてはめると…

ここでDay2の氷山モデルを復習してみましょう。

中野さんの実践を氷山モデルに当てはめるとこのようになります。

出来事:14人に1人が望まぬ性交渉を経験している現実

    性暴力にあっても相談できない、6割は誰にも言わないという現実

パターン:みんなが我慢している現状 me too運動で明らかになってきた過去の被害

     性被害の告白に対するバッシング

     裁判でも不起訴、無罪、冤罪となる現実

構造:110年前に制定された刑法、性犯罪。父や夫の所有物としての女性像。

   狭義の虐待防止法

メンタル・モデル(意識・無意識の前提:

   性暴力は被害に合う側に責任がある

   自分には関係ない  重い、暗いイメージ

中野さんはこの中の構造とメンタル・モデルへそれぞれ以下のアプローチを行いました。

構造→刑法、性犯罪の改正

メンタル・モデル→世論・意識を変える

構造、メンタル・モデルへ働きかけることの重要性がわかります。

◆しあわせなみだのこれまでとこれから

しあわせなみだはこれまで以下のような活動を行ってきました。

 ※活動の詳細に関してはレポート下部に載せているウェブサイトにてご確認ください。

1 直接支援

 性暴力被害者への直接アプローチをはじめに行っていましたが、どうしても事後対応になってしまい、性暴力ゼロへはつながらないという思いから、2を始めます。

2 イベントを通じた社会啓発

 災害時の啓発活動や、性暴力撲滅のファッションショー等を行います。ですが、その時は話題になっても長く残らないという課題もあり、3へと活動が発展していきます。

3 法制度改正の後押し

 署名を通じ、弁護士への懲戒請求を実現させた経験から、市民も声をあげれば法改正の後押しができると気づき、今回ご紹介くださった法改正を実現させています。

4 今後の展望

 “障がい児者への性暴力”が認識される社会を実現したいという思いのもと、2020年までに障がい児者への性暴力に関する法改正を実現することを目標とし、相手が具体的にできることを提案するという、明確な戦略をもって活動されているそうです。

新しい目標も氷山モデルに当てはめることができます。

出来事:障がい児者が性暴力被害を受ける割合が高いという現状

パターン:本人自身それが性暴力であると気づいていない

     相談しても信じてもらえない

構造:現状の法制度では、障がい児者が被害者として想定されていない

メンタル・モデル(意識・無意識の前提):障がい者と性が結びついていない

この中で前回同様、構造とメンタル・モデルに働きかけています。

◆中野さんから皆さんへのお願い

1 社会を変える仲間になろう

ソーシャルアクションを実現するために必要なこととして以下の3つが紹介されました。

・やってみる勇気と自信

・自分がもつ固定観念から抜け出すこと

・ソーシャルアクションを志す仲間

ソーシャルアクションは大変そう…と離れるのではなく、1人ひとりがちょっとの勇気と自信を持って固定観念から抜け出し、同じ志を持つ仲間とつながって行動を起こしていくことが大切なのだと、前向きな気持ちになれるお言葉でした。

2 性暴力のない世界の実現に向け、しあわせなみだを応援してください

 しあわせなみだは上記で紹介したように、2020年までに障がい児者に関する法改正の実現、2047年までに性暴力をゼロにすることを目指して活動しており、今後2019年4月~2020年3月にかけて全国でキャンペーン等も行われるようです。

詳しくは以下のサイト等に載っているので、ぜひご覧いただければと思います。

※特定非営利活動法人 しあわせなみだ

ウェブサイト http://shiawasenamida.org/

ブログ    https://ameblo.jp/nakanohiromi/

◆終わりに

中野さんからの最後のメッセージとして以下の言葉が贈られました。

「あなたが実現したい社会はあなたがつくる」

“社会福祉は人権擁護のための社会変革”というお言葉も非常に心強く、盛り沢山の内容で社会福祉を志すわたしたちはなんのために働いているのか、何を目指して行動するのか、改めて考えさせられる貴重な時間になりました。

《実践者から学ぶ②》

②では 江東子育てネットワーク協同代表 藤沢千代勝さん にお話を伺いました。

藤沢千代勝(ふじさわ ちよかつ)氏

【Day3】2018/9/16(日)
実践者から学ぶⅡ担当

江東子育てネットワーク 共同代表
NPO法人こうとう親子センター 共同代表
ホームスタートこうとう運営委員
㈱会社KA教育千葉教育開発室 代表

上越教育大学大学院修士課程修了
江東区立辰巳小学校長・辰巳幼稚園長
サンパウロ日本人学校(小・中)長
江東区立東川小学校(特別支援教室設置校)」長
東京都教職員研修センター教授
青山学院大学非常勤講師
産前産後ケアセンターサライ事務局長

(著書・論文)
進んで学ばせる教科や道徳の指導 文教書院
特別支援教育のすすめ方 日本文教出版
学びと発達の連続性 幼小接続の課題と展望 チャイルド本社

このように、藤沢さんは小学校の先生や校長先生として長年勤めあげ、

その中で養護教諭の方と協力して“心と体の相談室”で子どもたちに向き合い、

退職されてからも様々な子どもたちと関わる多くの活動を精力的に展開されています。

藤沢さんは私たちに伝えたい!という思いが強く、盛り沢山な内容となりました。

この日の講義は、以下の3本立てで行われました。

1 事例1:子ども家庭福祉(ミクロの課題)

      「家庭訪問型子育て支援」ホームスタートについて知る

2 事例2:江東子育てネットワーク(メゾの課題)について知る

3 課題1:「子ども家庭福祉分野のSW養成・配置等」の課題

      (マクロの課題)について知る

◆はじめに ~問題提起や藤沢さんご自身の思い~

3本立ての内容に入る前に、子ども家庭福祉分野の課題などのお話がありました。

(1)子育て支援・分野のあゆみ

平成元年の学習指導要領の改訂(教師主導を大転換)やエンゼルプランでの子育て支援が始まりましたが、学習指導要領改訂はゆとり教育と批判されてうまくいかず、子育て支援も少子化対策としてのものでした。その後、平成6年の子どもの権利条約の批准や、平成12年の児童虐待の防止等に関する法律の制定を経て、平成27年に子育て支援新システムが始まり、フィンランドのネウボラのような家族をまるごと支援することも意識されるようになってきましたが、まだ道半ばです。平成28年には児童を権利の主体とした児童福祉法の改正によって子どもが守られるだけの存在ではなくなりました。平成29年には学習指導要領の改訂が行われ、自分の頭で考えて行動する人材を育てるという方向性に変わってきました。

これはわたしたちが研修を通して学んでいるソーシャルアクションにも通じる考え方で、

藤沢さんご自身が自分で発信することや自主勉協会、自分たちでつくるということを大切にし、social actionを起こしています。

(2)子どもの権利条約に関して

※ソーシャルワークと子どもの権利「国連子ども権利条約」研修マニュアル より

“ジリアンは4歳の女の子です。彼女が家庭で受けた虐待の事実と、その後の両親の変化に進歩が見られなかった理由で、ジリアンと両親の交流は停止されることになりました。

・ジリアンが両親との交流を終えることが、彼女にとって短期的、長期的にどのように影響するでしょうか。

・子どもの最善の利益を考えたとき、ジリアンの意見が十分採り上げられ、決定に参加出来たとあなたは確信できるでしょうか。

・あなたの国では、ジリアンが成長したとき、親との交流再開を申請する権利はあるでしょうか。“

現在の日本の制度に当てはめて考えると、大人によって様々なことが決められている現状があり、本当の意味での子どもの権利が保障されていないことに改めて気づかされました。

スウェーデンでは警察の中に上記のような事案を取り扱う部署があり、子どもにとって最善の利益はなにか、裁判所、心理、福祉等の複数の視点から考えられているようです。

引用している本は既に絶版されていますが、それぞれの条約に関してこのような問題提起がなされているそうです。

(3)藤沢さんが生き方を選択した理由について

藤沢さんは「貧しさをなんとかしたい。学びたい子どもたちが学べる世の中にしたい。困っている人のために役立つ人間になりたい」という生き方を選択したそうです。

その理由は…

  1. 経済的に貧しく、希望する高校を受験することを断念せざるを得なかったこと

 ⇒ SWとして生きる生き方を決めた原点

  1. 大学で自主ゼミに出会い、「これこそが本物の学問だ」と気づいたこと

 ⇒ 松下村塾のような学びの場。

   「主体的な学び、対話的な学び、深い学び」を身につけた。

上記経験から、「本物の教育とはなにか、人間が“わかる”ということはどういうことか」

を一生涯の研究テーマとしたそうです。

「自分の一生をかけて探求し続ける“研究テーマ”を持ちましょう。」

と話されていて、そのような研究テーマを持ち続けている藤沢さんだからこそ教師という職業を定年退職されてもなお、様々な課題に精力的に取り組まれているのだと感じました。

やりたいこと、自分なりのテーマを持って恐れずに行動していく。

単純なようですが、それがsocial actionにとって大切なのだと考えさせられました。

◆「家庭訪問型子育て支援」ホームスタートについて

~ホームスタートを始めた理由~

学校の現場で子どもたちと関わる中で小1プロブレム、虐待、愛着障害、学べない子ども等に出会い、人類史上初めての子育ての危機を感じ、家庭内に引きこもって虐待が起きることも防ぐ、家庭訪問型子育て支援しかないと考えたそうです。

教育学者ボルノーの言葉として紹介された“教育は信頼と希望”が印象的でした。

“教育は教師と子どもの信頼関係がないと成り立たないし、希望がないと生きられない。子どもにどうやって希望を持たせられるのか”“包括的信頼:嘘をついたり、約束を守れなかったりしても教師はその子の発達の可能性を信じ続ける。”というお言葉も、子どもに関わる大人として非常に考えさせられるものでした。

~藤沢さんが1番伝えたいこと~

  1. 試し行動の持つ意味

乳幼児の愛着・基本的信頼感がとても大切。

試し行動は子どもの「本当に私の先生になってくれる?」という本能的な行動であり、丸ごと受け止めて、大人にしっかり守られているという安心感を持ってもらうことが大切という内容でした。愛情のこもった養育、周囲との関わり、子ども優先の子育て、親子の対話が重要であるとのことで、子どもが子どもらしく成長できることを本当に大切に考えられているのだと感じました。

  1. 子どもへのまなざしを変えよう

“子育ての危機は、大人が自分たちの作っている社会の仕組み、大人自身の子どもへの関わり方が原因であることを自覚すること、そしてそこから、全ての大人が制度・仕組みの改編と、意識・行動の変容に取り組むこと”との内容でした。

自己責任論が蔓延し、ともすれば子どもの言動もその子や家庭のせいのみにされてしまいがちですが、そうではなく、社会全体が自分ごととしてどのように変えていけるのか考えていくことが大切だと改めて考えさせられました。

~「家庭訪問型子育て支援」ホームスタートについて~

従来の「待つ支援」から「届ける・つなげる支援」を行い、

子育て支援を必要としていてもひろば等に来られない方に訪問支援を届けています。

ホームスタートは「安心」「自信」をつくって虐待の発生を予防するため

  1. フレンドシップ・ピアサポートの精神
  2. ありのままを受け止め寄り添う
  3. 指導や押しつけをしない     という3点を大事にして活動しているそうです。

ホームスタートは元々イギリスで始められたものであり、

創始者のマーガレット・ハリソンさんは専門職からボランティアになって始めたそうで、

専門家の虐待防止とは別に、ボランティアだからこその虐待予防という視点もあります。

なぜボランティアだったのか というと…?

  1. 「親の気持ち」に焦点を当てるため

当事者による対等な支援だからこそ、専門家のような「知識・スキルの向上」、ヘルパーのような「代替」ではなく「親の気持ち」を元気にすることができます。

  1. グレーゾーンの家庭に支援(発生予防)するため

(官では)支援が届かないグレーゾーンにも民間で支援対象を広げて関われる。

(ヘルパーには)お金を払えない家庭にも支援ができる。

以上のような2つの意味合いがあり、ボランティアならではの支援を届けています。

また、区と「協働」していることで、行政の持つ信頼性に支えられ、多くの区民に家庭訪問支援を届けることができています。利用者が次の支援者となる循環型支援や、ネットワークの形成される参加型の支援であることも、ホームスタートの特徴です。

よい家庭を目指すのではなく、ありのままを受け止め、尊重する

傾聴し、気持ちに寄り添い、共感する

地域で「助けて」といえる関係を作る

子どもの「うん」を引き出し、親子の信頼関係を構築する

毎日地域であいさつしよう

といったホームサポートの大切にする価値観は、大人にとっても、地域の誰にとっても優しい地域を作ろうという強い決意が感じられ、藤沢さんが1番伝えたいこととしてあげていた、①試し行動の持つ意味、②子どもへのまなざしを変えよう、を実現させていくためにも、非常に重要な考え方だと思いました。

ホームスタートでは親の気持ちに寄り添い、安心・元気をつくります。

親の話を傾聴し、気持ちに共感し、一緒に行動しますが、

アドバイス、指示、家事・育児代行は行いません。

利用家庭からは「家に来てそばにいてくれて安心しました」「ママ友にも話せないことが話せてストレスが解消しました」といった感想があり、虐待の発生予防、親の気持ちを元気にする、孤立感の解消、親の自己肯定感の回復、子育て力アップの効果が感じられているそうです。

※ホームスタート・こうとう

  http://www.homestartkoto.com

~ホームスタートの組織としくみについて~

ホームスタートには運営を担当するスタッフ5名、研修を受けたリーダー(ボランティアのサポートやマッチングを行う)5名、研修を受けたボランティア60名がおり、実際に家庭への訪問を行うのは60名のボランティアスタッフです。

ボランティアスタッフはホームビジターと呼ばれ、

講座を通して「家事代行ではないこと」「上から目線ではないこと」を身につけています。

それによって、ボランティアでも質・効果の高い訪問活動の保証を行っています。

~今後、ホームサポートを通じて実現したい社会~

以上のように行政と協働しながら、民間ならではの支援を届けているホームスタート。

1 必要な家庭への訪問支援の実現

2 親子の愛着(絆)を深め、子育ての自立支援

3 虐待の発生予防

4 ボランティアの増加と地域の育成者支援

5 地域ネットワークの促進

という5つの効果が期待でき、結果として

子どもの命を守り、子育てにやさしいまち

未来を担う子ども達が健全に育つまちの実現を目指しています。

子どもたちの未来のため、親子のサポートを行いつつ、

自然なかたちで地域の中でボランティア育成や地域ネットワーク構築を行っていく

素敵な活動だと非常に勉強になりました。

◆江東子育てネットワークについて

江東子育てネットワークとは、江東区の子どもの安心と安全を守る地域のネットワーク作りを区内に広げている団体です。江東区内のNPO、行政、医療、福祉、そして子育ての当事者と地域の子どもの安心と安全を守る町の方々と共に、点と点を結ぶ多機関連携ネットワークを目指しています。子育て困難、子どもの病気や事故、子ども虐待、防災・防犯など、町の中で子どもの健やかな成長と子育てを応援するネットワークです。

※江東子育てネットワーク

 http://kotokosodatenetwork.wixsite.com/home

具体的には以下のような活動を行い、脱孤育て!を目指し、

地域の中に子育てネットワークを広げていく活動を行っています。

・江東区の様々な子どもに関係する機関の加わるネットワーク作り

・子育てに関するシンポジウムの開催

・「おせっかい講座」「つながろうカフェ」の開講

・子育て支援の見える化:「おせっかいステッカー」の作成・配布

・「いきいきカレンダー(子ども向けのサービスがまとまった情報誌)」の配布

様々な活動を行っている民間団体は地域に少しずつ増えてきましたが、それぞれの機関ごとの活動に終始し、協働することは難しいという現状があります。だからこそ、江東子育てネットワークのように、積極的に地域のネットワークを構築していくメゾ領域での活動も、ソーシャルワーカーが行うべき大事なソーシャルアクションの1つなのだと考えさせられました。

◆子ども家庭福祉分野のSW養成・配置等の課題について

藤沢さんは「子ども家庭福祉分野のSW養成・配置」に関して問題意識を抱き、

実際に子ども家庭福祉分野のSWが養成・配置される社会の実現を目指しています。

その理由は以下の通りとのことです。

  1. 結愛ちゃん事件を2度と起こさないための鍵になると考えているため。

今回の事件の背景には、解決に当たることができる「人」が足りなすぎる、虐待問題の解決に当たることができる専門職=子ども家庭福祉分野のSWとして養成し、配置してこなかったという課題があると考えています。

  1. 困難を抱える子どもたちの課題は山ほどあるが、子ども家庭福祉SWがいないため。

子どもの貧困、学歴社会、暴力や体罰、いじめ、不登校等子どもたちの周りには様々な課題がありますが、それらの問題に複合的に対応できるSWがいないということが問題であると考えています。

  1. ケース会議を開いた際、核となるコーディネーター役=SWがいないため。

ケース会議においても、核となるSWがいなければ、それぞれの機関ごとの対応に終始し、結果として適切な支援を行えなくなってしまう可能性が高いと考えています。

ですが、結愛ちゃん事件を受け、国や地方自治体でも改善策を講じており、

その中には児童福祉司の増員やソーシャルワーカーの活用も含まれています。

藤沢さんは、ソーシャルワークと子どもの権利「国連子どもの権利条約」研修マニュアル 国際ソーシャルワーカー連盟編著 社団法人日本社会福祉士会国際委員会訳をテキストとし、子どもや親や各専門職の方への支援や指導ができるSWを「認定(子ども家庭)社会福祉士」のようなかたちで資格化し、児童相談所や保育園、学校、子ども家庭支援センター等の関係機関に配置し、虐待予防・防止、再統合、特別養子縁組、社会的養護、子どもの貧困、いじめ、不登校、引きこもり、自殺防止等々の課題解決に多職種間、他機関連携、チームの中心になって当たれるようにしていくことを目指しています。

そのために今後…

・社会福祉士、精神保健福祉士、SW関係団体との協議

・子ども家庭福祉分野のSWに関する調査検討会議、勉強会

・子ども家庭福祉分野のSW 法制化推進会議、法制化推進超党派議員連盟

・ロビー活動、署名活動、クラウドファンディング

・海外の先進的な取り組みから学ぶ   等の活動に取り組んでいくとのことでした。

以上のように、藤沢さんは

1 ミクロ領域での取り組み「ホームスタート」

2 メゾ領域での取り組み「江東子育てネットワーク」

3 マクロ領域での取り組み「子ども家庭福祉分野のSWの配置・養成」

という3領域それぞれにおいて、目標とする社会を実現させるための取り組みを行っており、実現させたいと思う社会のため、「できない」「わからない」などと簡単にあきらめるのではなく、自分ができることに取り組み続けることの大切さについて考えさせられる貴重な時間となりました。

◆最後に

まとめの言葉として「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」が贈られました。

ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。

社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。

ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。

この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい。

藤沢さんはまさにこのグローバル定義を大切にして様々な活動に取り組まれており、ソーシャルアクションを志すわたしたちにとっても、ふとした時に立ち返るべき、ソーシャルワーカーが拠り所とすべき考え方なのだと改めて気づかされました。

レポート作成者:SCA選抜2期生  吉木香純