「スキルパート4 -問題を社会化するための発信の技術-」                          【Social Change Agent 養成プログラム 2018 DAY7】

SCA養成プログラム  報告レポート

~DAY7 スキルパートⅣ「問題を社会化するための発信の技術」~

今回の講師は、フリーランスとしてご活動をされている秋元由梨さんです。

大学在学中、人権NGOでのボランティアがきっかけでカナダへ留学し、女性学および国際開発学を学ぶ。現地および国内で活動を続ける中でNPO/NGOのマネジメント課題を実感し、企業セクターでの経験を積もうと2005年にフライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社に入社。コミュニケーション/パブリック・リレーションズを専門とする企業で、国内外の企業や公的機関の広報戦略、社会啓発、組織変革などの支援に携わる。

2016年からは株式会社PubliCoへ参画し、公益組織の基盤強化支援に関わる。
これらの仕事と並行して、公益財団法人東京YWCAでDV被害者支援の支援者エンパワメント活動のほか、仲間たちと一般社団法人サードパスを立ち上げ、医療・介護・福祉分野の学び場づくりに取り組む。2018年4月よりフリーランスとして活動を開始。

秋元さんは、人権NGOやコミュニケーション専門コンサルティング企業で働いてきたご経験を元に、団体の立ち上げ・NPO/NGO支援を行い、「コミュニケーション」の力を個人・組織・社会に活かすという活動をしておられます。

まず、今回の講義の中で秋元さんが紹介してくださった、映画監督の是枝さんの金言に痺れました。

―「わかりにくいことを、わかりやすくするのではなく、わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える」

ソーシャルアクションを起こしていくために欠かすことのできない発信の技術。私たちは、伝えたいという思いが強いからこそ、メッセージのハイライトを定め、わかりやすくてキャッチーな言葉をチョイスしたくなります。

しかし、そのことが、「新たな偏見や分断を生んでいないだろうか?」という秋元さんの問いかけが、グッと心に刺さりました。

○コミュニケーションの基本

 どの本を読んでも共通というコミュニケーションの基本として、秋元さんが示したのは、3つの輪っか。

 1.「誰に」…コミュニケーションの「相手」。

 2.「何を」…メッセージ。つまり「伝えたいこと」であり「伝わってほしいこと」。

 3.「どのように」…直接対話、間接対話、マスメディア、ソーシャルメディア…方法は無数。

 この3つの輪っかが重なり、その共通部分に、「目的やビジョン」があります。この「目的やビジョン」がとても重要で、常に立ち返るべき場所。良い企業や団体はここが明確なので、検索してみると良いとアドバイスをいただきました。ここをいかに具体的に設定できるかが肝とのことで、ワークシートを使って演習を行いました。

○目的・ビジョンの設定

 目的とは、意義や価値観など「主観的要素」からつむぎだされるもので、柔軟・定性的。アウトカム(質的成果)などが問われ、試行錯誤が奨励あるいは要求されるもの。これに対し、目標とは、対象や数値など「客観的要素」から設定され、固定的・定量的。アウトプット(量的成果)などが問われ、未達や失敗は評価されず、むしろマイナス評価の対象とされるもの。秋元さんは、この目的と目標の違いに注目し、「目標は、間違うと管理手法となる。ロジックモデルにのみこまれてはいけない」「コミュニケーションは、目的を見失っては意味がない」と仰っていました。

 また、目的とビジョンについてもイコールではなく、ビジョンの例としてケネディ元大統領の「Moon speech」をご紹介いただきました。当時のアメリカはソ連との冷戦真っ只中で、その代理戦争といえる「宇宙開発競争」において、初の人工衛星打ち上げ、初の有人地球周回飛行ともソ連がアメリカに先駆けて成功を収め、アメリカは常に遅れをとっていました。そのような中で「我々は、10年以内に人類を月に送り込む」と宣言したケネディのスピーチは、アメリカ国民を鼓舞し、当時からすれば「10年以内」というのは無謀ともいえるあまりに短い設定でしたが、実際にアポロ11号が人類初の月面着陸を成し遂げたのは、このスピーチからわずか8年後だったとのことです。

 大事なことは、ビジョンは漠然としたものではなく、情景が浮かぶくらいにとことん具体的に設定すること。わたしや、あなたや、あの人の「こうなったらいいな」(目的)が実現・達成している状態をビジョンとすることで、具体的な行動ができるのです。

○伝えたい「相手」を定める

 続いてワークシート使いながら、コミュニケーションの「相手」を定めるということについても演習を行いました。

 まず、「伝えたい/伝わってほしい相手」は誰か、ということを考えます(例えば、困りごとを抱えている「○○さん」というところまで)。そして、その他にコミュニケーションすべき相手はいるか?(例えば、○○さんの家族、支援者、関わる制度や枠組みを考える・つくる人、その問題を世の中に提起する人など)を広げて考えます。ここでは、「ぐっと解像度を上げて、具体的な誰かを思い描くことが大切。相手を、国民・若年層・高齢者・政治家などと抽象的な相手にしていては伝わらない」「伝えたい相手を定めないと、メッセージがぼける」と秋元さんは言います。

○メッセージは文脈をどれだけ共有できるかが大事

 コミュニケーションの「相手」を定めたら、伝えるメッセージを考えます。

 秋元さんは、「主張・意見・要求」を、氷山の海面から出ている部分に例え、その下の見えない部分「背景やそこから生じている課題」を必ずセットで伝えることが大事であり、相手との「文脈・コンテクストの共有が不可欠」であると仰っていました。そのメッセージの裏付け(プルーフポイント)となる既存の調査や統計は丁寧に調べ、なければ調査(当事者の声を聴くことなど)することも大事。また、「伝える相手に応じて、メッセージのハイライトを使い分けることが有効」と仰っていた秋元さんの言葉が印象的でした。

○伝えたい相手が耳を傾ける「伝え方」を選択する

 相手とメッセージを定め、最後に「伝え方」の方法・計画を考える演習を行いました。

 方法は大きく分けてふたつ。「直接話法」と「間接話法」です。自分(たち)が直接相手に伝える直接話法よりも、第三者を介す間接話法のほうが、客観性が増す効果があり、情報の信頼性があがることもあります。

 また、どちらの話法を選択するにしても、伝える「手段」は無数にあります(対話、イベント、ニュースレター、メルマガ、書籍、ウェブサイト、SNS、メディア、広告など…)。定めた具体的な相手が、一番耳を傾ける方法を考える必要があります。

 秋元さんから、普段から「情報の受け取り方のストックを意識的に貯めておくと良い」というアドバイスがありました。

○代弁者になるということ

 秋元さんが、コミュニケーションについて真剣に考えるきっかけをくれたプロジェクトとして「ある難病に関するコミュニケーションプロジェクト」のお話をしてくださいました。

 当時、秋元さんは製薬会社から依頼を受け、その難病について広く世の中に発信するため当事者の方々からお話を聴いてまわっていました。そこで、秋元さんは、こちらが求める当事者像に相手が応えようとしてくれていることに段々と違和感を募らせていったといいます。「わかりやすさによって、本質を隠してはいないか?」「聴き手の関心に寄り添い過ぎていないか?」「当事者を過度に一般化していないか?」と。

 そして、「このコミュニケーションが、新たな偏見や分断を生んでいないだろうか?」という問いが浮かび上がってきたそうです。

 たしかに、時々メディアやSNSなどで安易に切り取られる福祉現場についてのコメントを聴くと、微妙な違和感や「そんな簡単なことじゃない」と憤りを感じることがあります。

 私たちが発信するべきメッセージは、どのようなものであるべきなのでしょうか。

 秋元さんのお話を聴きながら、問題を社会化することのリスクについて深く考えました。発信する技術を研ぎ澄ますことが、当事者を代弁するソーシャルワーカーとしての役割からはみ出すことになってはいけない、むしろわかりにくい本質をいかに発信できるかがソーシャルワーカーとしての腕の見せ所なのだと感じました。

 レポート冒頭の是枝監督の言葉、そして秋元さんの生の問いかけを忘れずに、これからのソーシャルアクションに活かしていきたいと思います。

 ちなみに、秋元さんは、講義の途中に浮かんだみんなの疑問を付箋で回収し、「Parking」と呼ぶ時間を設けて、すべての疑問に答えていました。その時間を設けることで、内容が深まり、秋元さんご自身の素敵なお人柄もわかりました。その手法が新鮮で、とても良かったです。

                          報告者:2期生 松本杏子