「スキルパート3 場をつくる-手法としてのワークショップ-」                         【Social Change Agent 養成プログラム 2018 DAY6】

手法としてのワークショップ

■講師紹介

坂倉杏介氏(さかくら きょうすけ)

東京都市大学都市生活学部 准教授

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任講師

慶應義塾大学グローバルリサーチインスティチュート 客員研究員

慶應義塾大学総合政策学部/大学院政策・メディア研究科/教養研究センター 非常勤講師

青山学院大学社会情報学部 非常勤講師

佐賀大学理工学部 非常勤講師

三田の家LLP 代表

研究領域
○コミュニティ論
・地域コミュニティの形成過程の研究とその手法開発
・協働プラットフォームとしての「地域の居場所」
・都心部のまちづくりと大学地域連携
・ケアをめぐるコミュニティとアート

○ワークショップ・デザイン
・映像制作を通じたメディアリテラシー学習
・情報通信技術を用いた感性ワークショップの設計
・初年次教育、グループ学習、サービスラーニング

コミュニティマネジメント論を専門としています。コミュニティマネジメントとは「人と人とのほどよいつながりを増やすことで多くの人が幸せに暮らせる社会を作ること」であり、その研究を行っています。

■コミュニティマネジメントの現状と可能性

現行のコミュニティや居場所づくりは、居場所づくりに必要な制度や建物(=ハード面)を作ってきましたが、その前提となる社会関係資本(=ソフト面)があることが前提となります。そのためには一人一人が能動性を持ってつながりあうことが必要です。

地域にそのようなつながりのある「場」は、小学校や商店街、老人会など既にありますが、それらは分断された(資源はあるがまだつながっていない)地域社会であり、それらの垣根を超えることで新しいつながりができます。そしてそのように新しいつながりを形成し資源を持ち寄り、関係性を組み替えていくことで社会的創発がなされ、地域社会を変容させていくことが出来ます。

■コミュニティ〈居場所〉の背景

情報社会の進展によって社会は変容しました。その場に出向かなくても情報は得られる、物理的に会わなくても人に「つながれる」社会になりました。しかし、例えば誰でも出向かなくても情報が得られる分、実際に出向いた人の価値が高まったり、物理的に会わなくても「つながれる」分、実際に会わないと得られない価値への気づきが高まったりなど、対面的コミュニケーションと場の価値の再発見がなされました。現に年々地域コミュニティの拠点は増加してます。また地域福祉、コミュニティビジネス、まちづくりなど幅広い社会課題の分野で様々な「居場所づくり」がなされています。

■よき〈居場所〉とは

坂倉氏はよき居場所を

・多世代・多文化の人がともに生きられる寛容な場

・「しなければならない」のない、いたいようにいられる場

・サービスを提供されるのではなく、住民主体でつくる場

であることだと定義づけています。

■芝の家とは

地域のあたたかい人と人とのつながりの創生を目指し、港区芝地区総合支所は「芝の地域力再発見事業」を進めています。「芝の家」はその拠点として、慶應義塾大学との協働で2008年10月にスタートし、様々な人が出会い、つながることで、暮らしやすいまちをともに考え創っていく機会を提供しています。

子ども、大人、お年寄り、区内在住・在勤・在学者、だれでも自由に出入りできる地域の居場所であり、人と人がゆるやかに出会い、あたたかく豊かな時間を過ごしています。また、さまざまな人の出会いから、コミュニティ菜園や子育ての場づくりなど多様な小さい地域活動が生まれています。

芝の家の感想としては、例えば社会福祉士の実習で行くと自分の役割がきちんと遂行できているのかビクビクした気持ちが多少あるものですが、見学の際は自分が何をしていても、だれが何をしていても全くの自由であることが感じられる空間でした。

■あたたかく迎えるために工夫してきたこと

「はじまり」と「おわり」にミーティングが毎日あります。その時に体調や気分を伝えるなど自分をオープンにして弱さを共有し、気持ちが今日のこの場この時にあることで、起きることに向き合えるようにします。また「おわり」では1日を振り返ってモヤモヤを話し明日はどうするかを決めます。そうしてスタッフの関係性をもとに人をあたかかく迎えることが出来ます。またその日の当番もいて全体を伴走して見守っています。

■スタッフの関係性をもとに参加者がどのように変化するのか

参加者は参加を継続するにつれて徐々に変化を遂げています。最初参加するときは緊張しているところから、自分がいてもいい場所なのだと安心するなどの変化が起き継続して参加するようになります。そして継続して参加することにより顔見知りが出来るなど所属意識をもたらします。その仲間との交流の中で自分らしさを発見するなどの変化をもたらします。そしてその中で自分らしい活動を表現していくようになります。そしてスタッフはそういった参加者の変化を促すような働きかけを行います。そのような変化と変化を促す働きかけにより、誰もが主体になれる居場所になっていきます。

■地域コミュニティづくりの担い手づくり

居場所づくりには居場所を作る担い手が欠かせません。しかし地域の社会課題を発見してその課題解決の方法を考えるようなまちづくり講座では非常に優れた方法を編み出すことが出来ても、実際に行う人はあまりいません。それは「自分の課題」ではないからです。

そのため坂倉氏は「自分のやりたいこと」と「地域につなげること」をつなげることで地域に新しいコミュニティを創造する、そのような担い手づくりとして「ご近所イノベータ講座」を開催しています。

■ご近所イノベータ講座とは

ご近所イノベータ養成講座は、講義とワークショップのほか、プロジェクトの実践や「芝の家」でのコミュニティ体験を通して「自分のやりたいことをまちにつなげる」技法を学ぶ、少人数制の実践型講座で、2013年から開講しています。講座内で学びが終わるのではなく、講座の終了が具体的な実践のはじまりと考え、講座が後ったあとにも生きるネットワークづくりとアイデアの技法を身につけることを主眼とした講座です。

■担い手が地域を変えていくには

「自分がやりたいこと」と「社会にいいこと」の両者があることで持続性と協力者を得ることが出来ます。しかしどちらかがはっきりしない状態、つまり①ぼんやりしているが「やりたいこと」があるが、しかし社会にどうつながるかわからない状態と、②「社会がこうなったらいいな」はぼんやり見えているが、自分が何をしたいのかがわからない状態、といった主に2パターンの悩みに分けられるそうで、①の場合は、やりたいこと、喜んでほしい人を突き詰めることで、社会課題につなげます。②の場合は、課題を明確にし、何をどうしたら社会を動かせるか、当事者が動き出せるかを考えることで解決が図れるそうです。

■「ご近所イノベータ」に参加することによる変化

「ご近所イノベータ講座」に参加する担い手は様々な動機で参加してきます。しかし参加者は講座を通して①信じられる人間関係の拡大、②交流によって起きる自己の探求、③活動に向けた試行錯誤の循環をすることで自分や他者や地域の関係性が変わっていくことが出来ます。

■所感

今回の「手法としてのワークショップ」の講義を受けて、マイナスをゼロに戻す活動ではなく、ゼロをプラスにする活動という言葉がとても印象的でした。自分の社会福祉士としての仕事を振り返ると、生活や人生の課題にぶつかった当事者の方がいかにその課題を乗り越えられるよう支援するか、つまり援助者としてマイナスをゼロに戻すことを中心に考えていたことに気づきました。しかし当事者のその方がその経験を踏まえて、よりその人らしく生き生きと生きていけるようにする、ゼロをプラスにする支援とは何か、視野が広がったように感じられました。

【レポート担当:SCA選抜2期生 佐藤まり子】