「実践者から学ぶpt.3+スキルパート1 デザイン思考-実践に新たな視点を加える-」                     【Social Change Agent 養成プログラム 2018 DAY4】

Social Change Agent 養成プログラム2018 Day4報告レポート

 Day4は2部構成。前半は「実践者から学ぶⅢ」ということで、ゲストは大田区にある牧田総合病院・地域ささえあいセンターのセンター長 沢登久雄氏です。

澤登 久雄氏(さわのぼり ひさお)

【Day4】2018/9/16(日)
実践者から学ぶⅢ 担当

社会医療法人財団仁医会 牧田総合病院 地域ささえあいセンター センター長介護支援専門員・社会福祉士・介護福祉士

平成20年4月 地域の医療・介護事業者に呼びかけ、「おおた高齢者見守りネットワーク」(愛称:みま~も)を発足。

現在、協賛事業所・企業・団体は90を超える。平成21年8月。当団体にて「SOSみま~もキーホルダー登録システム」を生み出す。平成28年3月末、登録者は30,000名。このシステムについては、全国の自治体で導入が進んでいる。

平成22年9月5日放送 NHKスペシャル「無縁社会 消えた高齢者の闇」に取材協力、平成22年10月30日放送 NHK「日本のこれからどうする?“無縁社会”」出演

著書 「地域包括ケアに欠かせない 多彩な資源が織りなす地域ネットワークづくり-高齢者見守りネットワーク 『 みま~も 』のキセキ- 」 

 前半のテーマは「まちづくりのために今、専門職が、企業が、住民ができること!~おおた高齢者見守りネットワーク(みま~も)の取り組み~」です。

 私は某自治体で社会福祉職として相談・支援業務にあたっていますが、相談件数に見合わない職員体制の中で、「相談に来ることが出来た方」、「強く主張を訴えることができる方」への対応に終始しがちな実態があり、常々モヤモヤと葛藤を抱えていました。

 沢登氏の言葉を借りれば、まるでそれは、「もぐら叩き」!

このままでは、本当は支援を必要としているのに自分でSOSの声をあげられない方々に手を差し伸べることができず、場当たり的な対応のまま地域課題の根本解決にまで着手できない。これでは、社会福祉の専門職として(「ソーシャル」ワーカーとして!)本来の役割を果たしたことにはなりません。

沢登氏は、地域包括支援センターの職員として、同じく強い問題意識を感じ、支援が必要な人を専門職による「点」で支えるのは限界!(個別支援の限界!)と感じたそうです。

そこで、地域に暮らすすべての人、地域で働くすべての人たちとともに「面」で支える仕組みづくりをはじめ、それが大田区の「みま~も」という取り組みになりました。

 「みま~も」の特徴は、補助金に頼らない「持続可能なしくみ」です。「いくつになっても安心して暮らし続けるまちづくり」という目的に賛同した企業・事業所・施設・病院クリニック等が「協賛金」を出し合い、活動をつくりあげています。現在、「みま~も」の協賛企業・事業所数は94にものぼり、そのうち企業の数は34。来たる超高齢化社会仕様の方向転換が企業に求められるなかで、他職種・異業種・公的機関のネットワークがある「みま~も」への参加は企業にとってもメリットがあるようです。

 さらに、「みま~も」の活動を盛り上げているのは、100名を超す「みま~もサポーター」と呼ばれる地域の方々。主体的に関わるしくみとして、あえて年会費2,000円を設定しているそうです。地域に還元される様々なサポーター特典もあります。

 こうして地域の多彩な社会資源・人的資源が織りなすネットワーク「みま~も」では、毎月1回、様々な分野の情報を得ることができるセミナーや、地域のプロバスケットボールチーム観戦ツアーなどを企画。最初は20~30名の参加が、継続は力なりで、今では毎回130名を超える程だそう。

 「みま~も」が凄いところは、主催者(専門職)と参加者(住民)が一方通行の関係で終わるのではなく、もっと住民が「やりたいことを実現」できる場をつくることができないか…?と、住民の主体性を追求したところ。

 例えば、地域にあった汚くて危ない公園を、子どもたちのために「もう一度きれいにしたい」「安心を取り戻したい」という声から始まった「みま~もガーデン」の取り組みでは、みま~もサポーターたちが、土を耕し、木の枝を切り、花を植え、ペンキを塗り、人々が集まる公園に生まれ変わらせました。さらに、区の協力のもと、公園に高齢者向けのリハビリ器具を設置。すると、みま~も協賛の病院からPT(理学療法士)が派遣され、毎週40~50名の高齢者が定期的に集まるようになったそうです。それだけでは終わらず、公園につくった畑「みま~もファーム」を、近所の認証保育所と連携して、他世代交流の場としているとのこと!

 一方、地域の商店街では、区の事業の一環として閉店した履物屋を「コミュニティスペース」に改修。この場を利用して「みま~も」がネットワークを最大限活かした講座(企業が活躍!)を引き続き開催し、平成29年度は430講座、延べ4950名もの参加があったそうです。さらに、サポーターの特技を活かした「手話ダンス」や「手芸部」の活動も活発で、協賛の病院や施設からサポーターたちは引っ張りだこだといいます。

こうして、自分たちが「求められている」という体験や、「楽しい」「やりたい!」という体験を通じて、「自分も何か誰かのためにできることはないかなぁ」とサポーターたち自ら、地域のすみずみに「楽しい」を広げていっている、それが「みま~も」のネットワークの強さです。

『専門職がやりがちな、「こうあるべき!」「これが大切!」というお仕着せのネットワークには限界がある。人は、「自分が満たされて初めて周囲に目が向く」のだから。「みま~も」が事業を通してつくるものは、住民の充実感・満足感であって、これ以上はあえてしちゃいけないこと。すぐに変化が見られなくても、焦らず、決して対象の人を蚊帳の外に置かないこと、とにかく主体が育つまで待ち、続けることが一番大事である。』と沢登氏は言います。

本人の気持ちが伴わないなかでは何も生れない。私たち専門職が今、意識しなければならないこと、それは「支援」よりも、「共感をつなぎ、主体を広げていくこと!」。

支援を必要としている、SOSの声を自ら発することができない人に手を差し伸べられるのは、私たち「専門職」ではなく、「地域」だということ。

「地域包括ケアシステム」なるものがうたわれて以降、医療・介護専門職の間では今、「連携」「ネットワーク」ブームが起こっていますが、現状は、「専門職のネットワーク」に矮小化され、地域の様々な社会資源、住民を巻き込んだ本来の地域包括ケアの方向性にはほど遠い現状…。

 専門職の連携で構築される一つのネットワークだけでは地域包括ケアは実現しません。なぜなら、それは専門職にたどり着けた人に対して支援するためだけのものになってしまうから。「みま~も」がつくりあげたもう一つのネットワーク、沢登氏はそれを「気づきのネットワーク」と呼び、この2つのネットワークの有機的なつながりをつくることこそが、専門職の役割であると強調されました。

「みま~も」に学ぶ、地域包括ケアの実現に向けた専門職の課題は、この「気づきのネットワーク構築に専門職として何ができるか」ということ!

様々な事業を仕掛ける「みま~も」の取り組みは、2つのネットワークの潤滑油のような役割を担っているといえます。

専門職の扉を叩く人を待っていても始まらない、地域の日常に飛び込んでいき、早期介入の仕組みをつくっていくことが、「地域包括ケア」=「まちづくり」の真髄。「みまもり」とは、把握や監視をすることではく、「つながる」ということ。地域でWIN×WINの関係づくりを模索し続けた「みま~も」だからこそ実現した、「気づきのネットワーク」に学びたいと思います。

実は、沢登氏が所属する地域包括支援センターは、「牧田総合病院」という病院が運営しているとのこと。この病院では、地域医療の中核となる病院が、その総合力を基盤として「全世代対象対応型地域包括ケア」を具現化するモデルとして、新たに「おおもり語らいの駅」事業を立ち上げました。それは、「気づきのネットワーク」と「専門職のネットワーク」がつながることができる場所。ひとつの大きな施設より、地域にそんな場所がたくさんあることが重要だという沢登氏の言葉は、とても重みがありました。

地域の中で働く専門職として、「気づきのネットワーク構築」のためにどのような仕掛けをつくることができるか。自分の所属組織とのWIN×WINをヒントに、自分も動き出そうと思いました。

Day4後半は、「スキルパートⅠ」となり、ゲストはissue+designの筧裕介氏と白木彩智氏です。テーマは、「デザイン思考―実践に新たな視点を加えるー」です。

筧 裕介氏(かけい ゆうすけ)

【Day4】2018/9/16(日)
スキルパート 担当(with 白木彩智氏issue+design コミュニティデザイナー)

1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。東京大学大学院工学系研究科修了(工学博士)。

2008年issue+design 設立。以降、社会課題解決、地域活性化のためのデザイン領域のプロジェクトに取り組む。

著書に『ソーシャルデザイン実践ガイド』『人口減少×デザイン』『震災のためにデザインは何が可能か』など。

代表プロジェクトに、震災ボランティア支援の「できますゼッケン」、育児支援の「親子健康手帳」、300人の地域住民と一緒に描く未来ビジョン「高知県佐川町・みんなでつくる総合計画」など。

グッドデザイン賞、日本計画行政学会・学会奨励賞、竹尾デザイン賞、カンヌライオンズ(仏)、D&AD(英)Shenzhen Design Award 2014 (中)他受賞多数。

昨今、注目を浴びているデザイン思考。あのiphoneやWiiもこのデザイン思考から生み出されたものだそうです。

みなさんは「デザイン」というとどのようなイメージをお持ちでしょうか?

 issue+designの筧裕介氏と白木彩智氏から発せられたデザインの定義は、とても興味深いものでした。

 「デザイン」とは、論理的思考や分析だけでは読み解けない、複雑な問題の本質を直感的・推論的に捉え、そこに調和と秩序をもたらす行為。また、美と共感で多くの人の心に訴え、行動を提起し、社会に幸せなムーブメントを起こす行為—。

つまり、「心を動かす」ことを大切にしている行為といえます。

 さらに、「ソーシャルデザイン」という場合の「ソーシャル」の意味については、「社会課題解決に意欲的な生活者の集合体(集合知)で解決を目指す」という意味があるとの解説がありました。あらためてこの「ソーシャル」についての解説を受けると、「ソーシャルワーク」「ソーシャルアクション」といった身近な言葉がかみ砕かれ、「集合知」で解決に挑むというところにとても意味があるように感じました。

 issue+designが行ってきた過去のソーシャルデザインの取り組みとして、震災時の避難所で活用された「できますゼッケン」、母子健康手帳のRedesign、みんなでつくる地域の総合計画づくり、プレ・シングルマザー手帖、自殺対策のストレスマウンテンといったものが紹介され、いずれも、社会課題解決のプロセスとして、とても柔軟なアイディアが洗練されたものである印象を受けました。

ひとくちに「アイディア」といっても、そう簡単に人の心を動かすようなアイディアは出てきませんよね。

 そこで、アイディアを発想&洗練させるソーシャルデザインの方法として、以下の7つのステップを教えていただきました。

  1. 森を知る
  2. 声をきく
  3. 地図を描く ⇒構造化する
  4. 立地を定める ⇒効果を考える
  5. 仲間をつくる
  6. 道を構想する
  7. 道をつくる

 このうち、今回は時間の関係上、短縮版で「3.地図を描く=構造化する」の部分について、ワークショップを行いました。

今回のテーマは、「都市のマンションコミュニティの課題を解決し、住民同士の豊かなコミュニティをつくるために必要なデザイン」。この課題を解決するためのアイディアを、「デザイン思考で発想する」ということをみんなで実践しました。

まず取り組んだことは、課題の構造が一目でわかる「イシューマップ」の作成です。イシューマップにも種類がありますが、今回は段階的な解決方法を考える「変化ステージマップ」を採用。マンションの住民同士の関係が、「無視・無言」の段階から、「挨拶オンリー」⇒「ぼんやり立ち話」⇒「くっきり立ち話」⇒「お約束」の段階へと至るまでを階段の図にし、それぞれのステップに進むために「どんなきっかけが必要か?」「もっとよく知るにはどんな仕掛けが考えられるか?」「暮らしのなかで助け合える関係になるにはどうしたら良いだろう?」というようなアイディアをグループに分かれて出し合います。

講師の白木氏によれば、「アイディアとは既存の要素の新しい組み合わせ」、「組み合わせのための要素が豊富であればあるほど新しいアイディアが生まれる」とのことで、既存の要素を知るために、ワークショップではまずマンションの情報を得ることから始めました。

注目すべき「既存の要素3パターン」は次のとおり。

  1. 生活者の声や生活スタイル…現場には何があるか?行動変容を促すヒント。
  2. 他の取り組み…他にあるどのようなしくみを利用するか。
  3. モノ・サービス・場所・人…何に落とし込むか。

 今回は、「①生活者の声や生活スタイル」を知るために、現場および周辺に何があるかと、住民へのインタビューの情報を聞き、アイディアを発想していきました。良いアイディアを生みだすためのポイントは「みんなで考えること」ととにかく「数を出すこと」。グループごとに、ポストイットを使って思いつく限りのアイディアをそれぞれ出していきました。 

 さらに、数多くのアイディアを出すために用いられたのが「接点カード」というもの。このカードには、「えんぴつ」「本」「グルメ」「のろし」など一見全然関係のない日常にある「もの」が書かれていて、既存のアイディアとその「もの」を組み合わせることで、突飛なアイディアを思いつくという手法です。こうして考えていくと、到底自分だけでは思いつかないアイディアも確かに生まれていき、とても面白い体験でした。

 今回のワークショップを通じて、普段自分が何気なく思考する「課題解決」のプロセスは、無意識に、前例や固定概念、バイアスに制限されていたことに気が付きました。

 そして、「集合知」が生み出す柔軟で突飛なアイディアに、とてもワクワクして、「ソーシャルデザイン」とは何て可能性のある解決法なのだろうと感動しました。

 今回は、そのプロセスの一部分しか体験することはできなかったので、個人的にこれからもっと研究して、実践に取り入れていこうと思いました。

                 【レポート担当:SCA選抜2期生 松本杏子】