「現場で対峙する課題と起こしたい変化を設定するために考えるべきこと-介入の焦点を定めるためのアセスメント概論-」    【Social Change Agent 養成プログラム 2018 DAY1】

みなさん、はじめまして。選抜2期生の近藤です。

2018年7月22日に行われた、Social Change Agent養成プログラムの報告レポートを担当させていただきます。

 Day1の講師は、SCA代表の横山北斗さんです。 

横山北斗氏のプロフィール
NPO法人Social Change Agency代表理事

神奈川県立保健福祉大学卒、社会福祉士

【実践領域】
・医療(病院)、介護(デイサービス)

・児童(学童保育)、障害(就労継続支援A型)

【教育領域】

日本福祉教育専門学校非常勤講師(保健医療サービス)

中部学院大学通信教育学部非常勤講師(社会福祉概論)

厚生労働省平成29年度社会福祉推進事業実践的社会福祉士養成教育のあり方と地域を基盤にしたソーシャルワークの実習の基盤構築に向けた開発的研究事業ワーキンググループ委員

当日は、横山さんがSCAを立ち上げた経緯や、地域、社会に働きかけを行う際に、重要になるアセスメントについてなど、Why(動機)、What(対象)、How(方法)の3つの視点から、講義をしていただきました。

●Why(動機)

一人でアプローチを続けるには限界がある

私(横山氏)が工学部の大学生だった頃、10代の時に闘病した経験が動機となって、自助グループの活動に参加しました。そこでソーシャルワーカーという職業を知ったことがきっかけとなり、福祉部がある大学に再入学して、ソーシャルワーカーの道を志しました。

福祉部の大学に入学して勉強する中で、小児科に入院している当事者の幼い兄弟は、感染予防の観点から、大人と同じように病棟に入って、当事者と面会ができない事実を知りました。そのことは、私が闘病していた時、病気の私に両親がかかわっている分、長い間、健康だった弟に寂しい思いをさせてしまった経験と重なりました。

私が闘病していた時代から、月日が何年も経過しているのに、状況が変わってないことに社会的な課題を感じました。大学生でも何かできることがあるのではないかと思い立ち、2003年小児科病院に入院している当事者の幼ない兄弟を、学生たちで預かるボランティア団体を神奈川県で立ち上げました。

その後、同じように入院患者の幼い兄弟を預かってサポートする、東京や大阪の団体の立ち上げにも協力しました。マスコミに対しては、入院している本人だけではなく、兄弟のことも取り上げてもらえるように呼びかけました。

こうした学生時代のボランティア経験を通して、一人でアプローチを続けるには、限界があることを学びました。現場で気づいた課題を共有して、社会資源をつくったり、当事者の声を代弁することで、地域や社会に働きかけることが必要だと思いました。

現場から社会に働きかけるためにSCAを設立

私が病院でソーシャルワーカーをしていた頃、ネットカフェを自宅がわりにして、職場に通勤していた方が、体調不良で救急搬送になったケースを担当しました。当事者の生活歴などをアセスメントする中で、他のケースにも共通したパターンがあることに気がつきました。

「リストラで家賃が払えなくなり、アパートを追い出され、ネットカフェに寝泊まりするようになる」このような状況になる方の多くは、滞在しているネットカフェでお金を貯めて、安定した住まいに戻りたいという希望を持っていました。しかし、実際にネットカフェで体を休めて、お金を貯めることは、現実的に難しいことが当事者たちの話からわかりました。

このケースを通じて、救急搬送になる前に、何らかの支援、情報にたどり着いてさえいれば、こうして病院に来ることはなかったのではなかいかと、社会的な課題を感じました。その後、試行錯誤を繰り返しながら、福祉の現場から社会に働きかけることが必要だと決意して、2015年2月にSCA(NPO法人Social Change Agency)を設立しました。

●what(対象)

アセスメントが介入の焦点を定める

ソーシャルワークの対象は、地域コミュニティ、物理的な環境、経済的な環境、法律、文化的、社会的に働きかけるなど、範囲はとても広いです。ソーシャルワーカーが人、環境、構造などに介入する際に、介入の焦点に対して、しっかりとした仮説を立てることなく、当てずっぽのような感覚で介入や支援をすることがあれば、それは博打のようなものだと思います。

ソーシャルワーカーの仕事は、制度の紹介や関係機関へリファーすることに焦点を当てることが多いです。だからこそ、焦点が当たりやすい行動を起こす前のアセスメントは、とても重要になります。

「足腰がおぼつかないから、家には帰りたくない」と訴える高齢者がいたとします。「環境」に意識を向けてアセスメントをすれば、退院したくないと訴える理由を環境の中から探し出すことができます。家庭環境として、一人暮らしに不安を感じていたり、介護保険などの制度を知らないだけかもしれません。

既に得ている情報、新たな情報を整理して、仮説検証を繰り返すことで「必要な仮説」と「捨てる仮説」を判断することで、介入の焦点を絞ることができます。地域や社会など、広い視野で何らかの働きかけをしようと思うと、介入の焦点の仮説が増えます。さらに複数の介入の焦点の仮説同士の関係性が増えます。介入の焦点を定めるためには、よりアセスメントが重要になります。

生活歴には財宝が埋まっている

リストラにあって仕事を失うことは、労働市場からの排除と言い換えることができます。自分の目の前にいる方が、社会のシステムから排除された人なのか、一人ひとりを理解することは、簡単なことではありません。

地域や社会に何となく働きかけをしたいと思った時、その「何となく」を具体的にして行くためには、目の前の人をしっかり捉えることが重要になります。現場でクライエントから聞く生活歴には、たくさんの財宝が埋まっています。多くのクライエントから聞けば、聞くほど、その地域に何が足りてないのか、パターンが見えてきます。

社会構造の変化を理解する

クライエントの困りごとを生じさせている構造が、昔と今では、どう変化しているのか、気づくことができないソーシャルワーカーが多いと感じています。地域、社会に働きかける必要があると言いつつも、それを難しくさせている原因の1つは、社会構造の変化に気づけていないことだと思います。

ソーシャルワーカーが、現場で出会うクライエントの支援を通して、地域や社会に対して働きかけて行くためには、日頃から社会構造について、しっかり学習して知識を得て行くことが重要だと思います。


ソーシャルワーカーは社会的排除の尖兵か?

イギリスの書籍に、ソーシャルワーカーは社会的排除の尖兵になっているという批判が書いてあります。ここでは、あえて「社会的排除の尖兵」という強めの提示をしました。

日本の場合、ソーシャルワーカーの殆どは、制度化されたサービスを対象者に届ける「援助活動の主体」のポジションにいます。生活保護や障害福祉のサービスなど、法的根拠がある予算化されているサービスを、エンドユーザーであるクライエントに届けています。

それは言い換えると「制度を提供する門番」として、ソーシャルワーカーがいると捉えることができます。私の経験で例えるならば、病院に勤務していた時に、地域の方から「介護が大変なので休みたいのに、痰の吸引を理由に施設が受け入れてくれない。レスパイトケアで病院に入院させて欲しい」と相談をよく受けました。


病院のソーシャルワーカーとしては、なんとか入院のサポートをしたい気持ちでいっぱいでした。急性期のレスパイトケアを受けないという病院の方針がある場合には、その病院の方針に従って「うちの病院ではお受けできません」と回答することがよくありました。

様々な制度やサービスの入り口にソーシャルワーカーがいるからこそ、そこでNo(ノー)を突きつけることで、社会的な排除の一端を担っているのではないか、そういった批判があります。厳しい言葉を使うと、日本はソーシャルワークの国際定義も体現できていないです。それだけならまだしも、社会的排除の尖兵という批判を向けられています。

私自身、ソーシャルワーカーとして、このままでいいのかとずっと疑問に思ってきました。思っているだけでは変わって行かないので、どのように変えていくべきか、皆さんと一緒に考えて行きたいと思っています。

●How(方法)

SCAが事業により起こしたい変化 ~人材養成事業~

人材養成事業として、社会やかかわる人たちに対して起こしたい変化は次の通りです。

・社会に働きかける力を備えた(メゾ・マクロへの展開ができる)ソーシャルワーカーを増やす(ミクロ/個人)

・地域単位で育て合い研修し行動を起こす
アクション・コミュニティをつくる(メゾ/地域)

・日本のソーシャルワーカーの在り方をグローバルスタンダード(国際定義)へ(マクロ/社会システム)

SCAが事業により起こしたい変化 ~連携協働事業~
連携協働事業の介入として定めているのは、社会保障制度における申請主義の弊害です。

一般的にその人が困っていることを言語化できて、適切な窓口や機関にアクセスすることができて、はじめてその人に支援やサービスが提供できる枠組みがあります。必要としている機関を自分で探して、自分の困りごとを言葉にして、伝えることができる人にしか、支援を届けることができないという社会保障制度の限界があります。

例えば、知的障害や気分が落ち込んでいて、情報にアクセスすることが難しい方など、支援者側がサービスを届けたいと思っていても、なかなか出会えない人たちが大勢います。連携協働事業を通じて、そういった方々とつながって行きたいと思っています。


本プログラム終了時の受講生の姿
SCAとして、受講生にこういう姿になって欲しいという思いを込めて(以下参照)、本養成プログラムを企画しました。


1.問題の構造を自分なりに読み解くことができる

2.介入の計画(仮説)を立てることができる

3.問題意識を語り、仲間をチームに巻き込みチェンジエージェントシステムをつくることができる

4.もしくは、アクションシステムの一員として関わるという選択肢をとることができる

5.仮説を検証するためのプロトタイプ(実験的取り組み)をつくり、実施することができる

6.より多くの資源を得て計画を進める/社会問題化するために、社会発信することができる


社会を捉える解像度を高める

本養成プログラムを修了した受講生が、医療、福祉、介護などの現場に戻った時に、クライエントを通して、地域や社会を捉える時の解像度が変わって、より良く見えるようになることを心から願っています。

そして午後からは、同じくSCAのスタッフでワークショップデザイナーである堀尚子さんが、「C×3BOOSTER」というカードゲーム型のコミュニケーションツールで、ワークショップをリードして下さいました。

フィンランドの国家認定のソーシャルワーカーが開発したもので、対話ベースで楽しみながら多様な自己表現と傾聴が促されるというワークでした。初日で参加者がお互いの事を知らない状況であったので、チーム内でのお互いの距離がとても早く縮まった事を覚えています。

対話の中で自分の思考に気づき、思考を他者に向け言語化(表現)することで、より深い自己覚知につながりました。ソーシャルアクションの原動力となる動機づけがより深まりました。

DAY1をふりかえって(レポート担当選抜生の所感)

横山さんが発する言葉の1つ1つには、同時に3つのメッセージが込められていると感じました。

1つは、横山さん自身の闘病経験に基づく「当事者の希望」です。

2つめは、クライエントのために社会をより良く変えたいと願う「支援者の熱意」です。

3つめは、ソーシャルワークの理論に基づいた「クールな知性」です。

この3つがバランスよく混ざり合って横山さんの原動力になっているからこそ、横山さんは、SCA設立を成し遂げ、ソーシャルアクションに思いを寄せる人々の心を、動かし続けているのだと私は感じました。

養成プログラムDay1を終えて、とても印象的だったのは、会場に広がる独特の空気感です。リラックスした中に、“ここから何かが変わる”そんな未来につながる予感が、会場を包み込んでいるように感じました。

メゾ、マクロ領域で、人、環境、構造を変えようとアクションを起こしたり、続けるためには、準備、情報収集、サポート、時には休憩が必要です。SCAには、その環境が整っています。SCAで出逢う同志たちと切磋琢磨しながら、自分のペースでソーシャルワークに向き合いたいと思いました。

ソーシャルワークを学ぶ機会は、世の中にたくさんあるかもしれません。ですが、今、ニッポンで最も先端を走る“生きたソーシャルワーク”を学ぶことができるのは、SCAにしかないと確信しました。

レポート作成者:SCA選抜2期生  社会福祉士/精神保健福祉士 近藤康寛