ソーシャルアクションのリスク -アウトリーチ現場からみえてきた支援のミスマッチ【第5回social action school】

こんにちは。SCA一期生の大塚です。
第5回目のSocial Action Schoolゲストは、全国こども福祉センター理事長の荒井和樹氏です。

荒井 和樹
社会福祉士.大学卒業後、児童福祉施設での児童指導員を経て、全国こども福祉センター設立。現在は大学教育機関での教育活動(サイバーパトロール演習)、利用者支援事業、社会的養護に関する活動(アフターケア・相談事業、給付金型奨学金ソーシャルワーカー)、社会での活動(デタッチドワーク実践、アウトリーチ(直接接触型)研修・国内普及プログラム)を実践し、社会的養護に至る前の予防活動に力を注いでいる。

今回は、“一歩立ち止まって支援を見直す”ということで、ソーシャルアクションに取り組む際のリスクについてお話を伺いました。ソーシャルアクション実践として、強い声を上げるために様々なメディアやSNSが利用されます。貧困ポルノのようなメディアで作り上げられたストーリーや貧困像に、安易に偏重し加担してしまう危険性についても伺うことができました。

私は青年海外協力隊員としてアフリカの国際協力に携わった経験があります。国際協力の現場でも、多額の資金を使って建設されたハードが使われないなど、支援のミスマッチが散見されています。直接その国の文化に入り込んで支援することはとても重要なことです。今回お話を聞いて、支援の考え方は国内も国外も関係ないことを痛感しました。

では、荒井氏に投げかけていただいたたくさんの問題提起を中心に、講義を振り返っていきます。

 

支援のミスマッチを起こさないために

 

「私を見て、どんな職業についていると思いますか?」という一言で、講義が始まりました。

荒井氏と初めて会うと、その風貌からホストかスカウトかと思うかもしれません。しかしこれは、子どもの本音を引き出すためのツールだそう。子ども側へステージを移動し、仲間という関係性を作り上げることで、本当に必要な援助を導き出すそうです。このように常に子どもたちに寄り添う支援を継続されています。

 

支援を疑い一歩下がるための問題提起

いくつか問題提起があったので、まとめてみます。

-メディアと貧困ポルノ

団体が行っているパトロールを特集したテレビニュースを鑑賞し、どう感じたか?という問いかけがありました。

荒井氏が驚いたのは、自身の紹介でした。冒頭で荒井氏について「父子家庭で幼いころ母親と死別した」という紹介がなされました。また、映像に出ている子どもたちの顔にモザイクがかけられていること。子どもたちにとっては普通の生活で、何も悪いことをしているわけではないのに、モザイクがかけられ声が変えられています。これを見た当事者の子どもたちはどのように感じるでしょうか。

メディアは往々にして、分かりやすい発信をするため、誇張しイメージを植え付ける傾向があります。そして視聴者は、メディアによって作り上げられた貧困像や福祉像を通じて、かわいそうなイメージを作り上げています。そのことを支援者も意識する必要があります。

実際の現場を見ずイメージの中で支援を行うことで、支援のミスマッチにつながると考えられます。

-助けたいハラスメントの存在

相対的貧困の中で、福祉側も常に課題探しをしています。必要でない支援を押し付けている現状があるかもしれません。必要のない支援は相談者側の苦悩を生みます。

アウトリーチ

引きこもりやニートといった概念が広まり、アウトリーチ支援について認識が広がってきました。アウトリーチというと家庭訪問と思われる方が多いと思います。家庭訪問と考えると、それは専門職が行うもので、法律に触れてしまうのではとリスクを感じるかもしれません。またやり方によっては、相手のテリトリーに土足で踏み込むことになります。いきなり訪問することが、相談者にどのような影響を与えるか考えてみてほしいと思います。

-社会的養護の現場

みなさんは社会的養護のイメージと聞いて何を思いますか?という問いかけもありました。今回の参加者からは“集団生活”や“規則がある”といった答えが返ってきました。しかし学生たちに質問すると“貧困”や“虐待”という答えだったそうです。

では実際の現場は? 中学生には個室が与えられ、食事も充実。年間400万円の予算がついて、医療や教育も公費で賄われており、貧困のイメージとはかけ離れているそうです。

児童養護施設には様々な機関から物資が届きます。時々すでに充足していて、必要のない物が届くことがあります。そんな時でも、子どもたちはお礼状や感謝の言葉を強制させられます。ニュースでランドセルが届けられたのを見たこともありますが、すでに予算がついている物です。やはり、現場を見ない支援はミスマッチを起こす可能性があります。

給付型奨学金についても触れてみます。社会的養護施設の児童にとって、もちろん給付型奨学金は必要なもので、機会を与えてもらうもの。ただし奨学金を受けられるのは、成績と生活態度が良いロールモデルの児童だけ。ではそこから外れてしまった子どもたちは、どうすれば良いのでしょうか。課題が残ります。

-ニーズとデマンド

ニーズ=“必要”、デマンド=“要求”と定義されます。支援は相談者の想いに寄り添い、必要に寄り添うことですが、ニーズとデマンドは重なる部分もあり紙一重でもあります。近年、子ども食堂など子どもを預かる居場所が増えてきましたが、そこを利用することで親子関係の希薄化が進んだ事例があります。デマンドを強めすぎることで、社会からの個別化が進んでしまうこともあります。

また要求の声が大きい人は支援を受けやすいですが、声に偏重しすぎると偏った支援がうまれます。支援者として大切なことは、そのソーシャルアクションはニーズか、デマンドか、線引きはどうだろうという疑いを持ち続けることです。

 

問題への内省から現在の活動へ

ある時、施設職員として教育困難校へ訪問した際のこと。クラスの生徒が半減していたことがありました。退学していたのは社会的養護にいた生徒ではなく、一般家庭の生徒でした。実は一般の困窮状態にある家庭の方が、より深刻な事態にあるのではないかと気付きがありました。

そこから、一般家庭の困窮者と社会的養護の現状の違いについて考えるように。児童養護施設では専門職なのに待っているだけ、でもインターネットの中では困っている人がたくさんいました。入所に至る前の一次予防が必要ではないかと思い始めた時、当時の彼女が路上の夜回りを勧めてくれました。

子供たちとの関わりを開始

彼女の勧めをきっかけにして、夏祭りでのアプローチを開始しました。子どもたちから、自分たちとは違うと思われると壁ができてしまうので、現在のようなスタイルや着ぐるみを着たりしてパトロールを行うように。

また様々な子どもたちと出会うために、仮説を立てました。学校中退者はどこに行くのか?

路上、ホストクラブ、性風俗、出会い系サイト、コミュニティサイトなど思いつく限り、アプローチをしました。男性が一人で声をかけているとあやしいので、女性の共同者と一緒に子どもたちへのアプローチを。少しずつ仲間が増え、その後子どもたちも参加して路上でパトロールを行うようになりました。

路上パトロールでは、主に通勤途中での声掛けを行っていますが、決して勤務先の前や、無理やり声をかけることはしないというルールを設けています。また一人で抱え込まないことや適切な距離の保ち方を伝えながら、子どもたちと活動を継続しています。

そこから、累計7033名(平成24年から平成28年)がフットサル、バドミントン、季節イベント、募金パトロール等の居場所づくり事業へ参加しました。スポーツが多いのは男子の居場所として、また入り口を大きくして参加のしやすさを狙ったものです。

パトロール参加者の中には、自分の居場所を求めて、つまり自分のために参加している人が少なくありません。子どもたちには、自分と向き合い、それぞれの課題意識に向き合ってほしいと伝え続けています。

支援のつながり方をもう一度見直す

ここで支援について、電話相談を例に挙げて考えてみます。問いたいのは、本当に子どもたちは電話相談を利用するか?ということです。

“電話相談”というキーワードを今回の講義中にweb検索しました。すると約4,000万件ヒット。もちろん全てが機関ではありませんが、相談者側が選択し実際に電話をかけるまでのプロセスに困難が伴うことは想像に難くありません。

また学校でホットラインのカードが一斉配布されますが、本当に困ったときにそれを思い出し相談につながるケースはあるのでしょうか?実際に子どもたちへ調査しましたが、カードを持っているケースはありませんでした。

子供たちに電話相談について質問すると、「電話相談はただ聞いてくれるだけ。傾聴ではない、具体的な解決策を教えてほしい。」という声があがります。また同じ人が何度もかけるため、つながりにくい現状も。考えられることは、電話の向こうではなく、身近な大人が、近くにいる子どもに向き合うことが重要ではないかということ。リアルな関係性が、より早く子どもたちの異変に気付けるのではないでしょうか。

SNSの効果的な使い方

そこで子どもたちに出会うためのツールとしてSNSを活用しています。Twitterは子どもたちとリアルに会った上で、ゆるくつながるためのツール。メリットは子どもたちがそれぞれ自分の好きなタイミングで見て発信できること。この支援前提ではない仲間作り、セツルメントのような取り組みを、荒井氏はデタッチドワークと呼んでいます。子どもたちの中に入って、フラットで対等な関係性を築いています。

1人の少女の事例を挙げます。サイバーパトロールで出会った、ぼったくりガールズバーで働く少女です。荒井氏はTwitterで彼女と友人のような関係を保ち、彼女が相談したいことが出てくると会いに行って話を聞きました。もともと社会的養護出身で進学を検討していた彼女は、最終的に経営者としての道を生きることとなりました。

この支援をまとめると、サイバーパトロールというアウトリーチで出会い、Twitterでゆるくつながる関係性を作り、困ったときにはリアルな関係で支援を行ったのです。

アウトリーチと予防活動 -0次予防という考え方-

このようにアウトリーチには、子どもたちに支援機関を知ってもらい、支援機関へのアクセスを簡易にする側面もあります。また社会調査の手法として用いることもできます。これは、一側面に着目する安易なソーシャルアクションのリスクを減らし、多様な側面から社会をとらえることを可能とします。

荒井氏は支援が必要とされる人として4つの階層を定義しました。上から順に、“困っていない人”、“支援機関を利用できる人”、“支援機関を利用できない・しない人”、“支援機関に気付いてもらえない人・発見されない人”です。この最下層の“支援機関に気付いてもらえない人・発見されない人”は今まで支援がされてきませんでした。定義付けによりこの階層にも、アウトリーチによる予防アプローチの必要性が見えてきました。

福祉の予防活動はマスコミからは評価されません。しかし性産業に入った人に、その社会から退出するよう促すアプローチをするのは、価値観を変化させる難しさがあります。同年代の金銭感覚からはすでに外れ、そこを変化させるのは困難だからです。やはり早期の関わりが必要となります。また医療分野においては、一次予防・二次予防・三次予防という考え方があり、下位に行くにつれて社会コストが増大するとされています。福祉分野でも医療分野のような予防活動を行うことで、社会コストは軽減されます。

【全国子ども福祉センターホームページより抜粋】

荒井氏はさらに進み、自身の取組みを0次予防としています。早期に関わり、価値観や社会を知って考えてもらう段階です。

Twitterやコミュニティサイトを繋がりづくりの手段とし、子どもたちの情報を知り、その場で使われている言語を使用してゆるくつながる関係作りを行う。そこから、社会を知ってもらうための居場所作り等の0次予防につなげています。

その支援は誰のためか?

社会課題を前提として相談者と向き合うのは違います。それはメディアで作り上げられた社会課題かもしれないからです。取り組んでほしいのは、近くにいる人、相談者として目の前にいる人へ、本当に必要な支援をすること。

ソーシャルアクションから社会や価値観を変化させるのには時間がかかります。時に対立を生むことも。社会が合わせる必要もあるけれど、子どもたちも社会を知らなければいけません。社会を知ってもらうために、仲間として子どもと関わることで、お互いに歩み寄っていく段階を作りあげています。

本当にその支援が必要なのか、本当にそのソーシャルアクションは必要なのか、目の前の人に寄り添いながら、今一度考えてほしい。その支援は誰のためか?

相談者不在のソーシャルアクションを行わないために、ヒントがつまった、

一歩立ち止まらせてくれる講義となりました。

【SCA選抜1期生 大塚理世】

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