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【連載】『子連れソーシャルワーク留学 in カナダVOL1-3』二木泉【ソーシャルワークタイムズ掲載記事】

19 7月 15
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弊法人メールマガジン「ソーシャルワークタイムズ」にて連載中の二木泉さんによる「子連れソーシャルワーク留学 in カナダ」の過去記事を掲載いたします。二木さんは、日本財団国際フェローシップの支援を受け、現在はお子さん2人を連れてカナダのトロント大学大学院にソーシャワークを学ぶため留学中。カナダの文化や社会福祉サービスの現状、そして大学院での学びの共有をしていただいています。最新号を読みたい方はぜひ、ソーシャルワークタイムズ購読をお願いします。

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「子連れソーシャルワーク留学 in カナダ 〜福祉の知識がゼロでもソーシャルワークの大学院に行ける?!〜

 
はじめまして。(にいずみ)と申します。
私は現在、ソーシャルワークを勉強するため、子ども2人(10才・8才)と共に
カナダのトロント大学院に母子で留学しています。

今後、カナダでのソーシャルワーク教育や実習、子どもたちとの生活を通して見る児童福祉や政策、カナダのソーシャルワーカーの仕事の様子などをお伝えでればと思っています。

さて、私が通っているのは「University of Toronto, Factor-Inwentash Faculty of Social Work」。
直訳すると「トロント大学 ファクター・インウェンタッシュ社会福祉学部」。

今年で設立100周年を迎えた、カナダで最も古いソーシャルワークの学校です。
昨年10月には100周年記念式典がロイヤルオンタリオ博物館で行われ、
恐竜の骨格標本やミイラの隣でパーティーが行われたのに驚ました。

でもこの「ファクター・インウェンタッシュ」ってなんでしょう?
これは学部に多大な寄付をしたご夫婦の名前なんです。
25年以上ソーシャルワーカーとして活躍中の妻と、トロント大学出身の夫が
日本円で約1,500万円の寄付をされて、2007年に名前がつけられました。
さすが北米の寄付の文化。でも学部の名前まで変えてしまうとは、すごいです。

このようなカナダの寄付の文化は、道行く人がホームレスの人にお金を渡したり差し入れをしたり、
フードバンクや歳末助け合い運動などが盛んなことからも垣間見る事がでます。
(その様子については、今後お伝えでればと思います。)

さてこの「社会福祉学部」、学部と言っても、実際にあるのは「大学院」だけなんです!
なのでトロント大学に学部生として留学しても、ソーシャルワークは学ぶことはでませんのでご注意を。

私のいるプログラム、Master of Social Work(以下、MSW)は修士課程の2年間のプログラムで、
学部で「ソーシャルワーク以外」を勉強した人向けの大学院です。
かく言う私も、大学と大学院では社会学を専攻したので、福祉やソーシャルワークを専門的に勉強したことはありませんでした。

大学院を卒業すると、その名もMSW(Master of Social Work / 社会福祉学修士)という学位が授与され、
「資格」と同じように使うことがでます(国家試験などはありません)。

日本でMSWと言えば医療ソーシャルワーカー(Medical Social Worker)の略ですが、
英語では「修士号を持っているソーシャルワーカーの意味になりますのでご注意ください。

ちなみに、今カナダではソーシャルワークは非常に人気があるらしく、倍率が10倍を超える大学院もあるとか…。

一般的に大学院は、研究系と専門職の養成系に分かれるのですが、MSWはまさに専門職養成系大学院。
同級生は100人くらいで(と、研究系の人に言うとすごくビックリされます!研究系は数名から多くても数十名ですね)
ほとんどの人が1年〜十数年の社会人経験があります。
カナダの大学院の受験はペーパーテストはなく、論文に加えて、これまでの経歴や大学の成績、
推薦状の内容などが重視されることもあり、有償無償を問わず、皆さん様々な経験をされてています。

同級生の9割は女性。カナダではソーシャルワーカーは女性の仕事と思われているんだとか。
そして、半分くらいの人が学部で心理学を専攻していたそうです。

実はトロントのあるオンタリオ州では、ソーシャルワーカーがカウンセリングをしたり、
個人でカウンセリングオフィスを開業することがでます。
そのため心理学を学んだ人が「カウンセラーになりたい!」と多く進学してくるようです。
他は社会学、女性学、政策、人類学、文学、理系の方など多岐に渡ります。
大学とは違う専攻が大学院から学べることは魅力的だと感じました

この大学院には私が所属する2年でMSWを取れるプログラムの他
学部でソーシャルワークを勉強した人向けに1年でMSWが取れるプログラムや、
既にMSWを持っている人向けに、より高度な知識が学べるディプロマコースもあります。

キャリアチェンジのためだけでなく、実際に働ながらステップアップを目的に通っている人もいます。
では、福祉の知識ゼロの人でもOKのこの大学院では、2年間でどんなことを勉強するのでしょう?
それはまた次回…。
 
ソーシャルワークタイムズ  vol53 2015.1.18より転載
 
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「子連れソーシャルワーク留学 in カナダ 〜ソーシャルワークの大学院、その内容とは?〜 」

 

私の通うトロント大学の社会福祉大学院の2年間のプログラム(MSW/社会福祉修士)は、
大学で社会福祉を専攻していない人向けのプログラムです。
なので、1年目に基礎を学び、2年目から専門に分かれます。

1年目の科目はすべて必修。
社会や心理の基礎的な理論、カウンセリング理論や演習、家族と子どもの福祉、地域福祉、
福祉組織、グループソーシャルワーク、調査法、政策、などに関する授業があります。
授業は1科目につ連続3時間。

秋学期(9月〜12月)は5科目を履修しました。
その中には、プロの役者さんをクライアントに見立てて、実際にカウンセリングをするという授業がありました。
「みんなの前で英語でカウンセリング?!」と泣そうになりながら取り組みました(笑)

今の冬学期(1月〜4月)は3科目と、週3日の実習(7時間×67日)が入ります。
実習先は病院、福祉施設、児童相談所、シェルター、高齢者施設、非営利組織や民間団体、など様々です。
実習は夏学期(4月〜7月)に集中的に行うことも可能で、私はそれを選択。
なので、今学期は2年生対象の授業をいくつか履修する予定です。

2年目になると、5つの分野から自分の専門を選択します。
それらは ①メンタルヘルス、②子どもと家族、③高齢者福祉、
ソーシャルジャスティス(社会正義)と多様性、⑤福祉組織経営(人材育成)です。

この中でも①メンタルヘルス、②子どもと家族の専攻が特に人気で、
聞いてみるとそれぞれ半々くらい、合わせて全体の約8割くらいの人が希望しているようです。
特にメンタルヘルスの専攻を希望する人は、病院に就職したいという人が多いようです。

高齢者福祉の専攻はあんまり人気がありません(私の専門なのでちょっと寂しいです)。
先生方は「高齢者福祉は今後は必要になるわよー、仕事もあるわよー」とよく言っていますが…。

でも、考えてみると私も実際に無資格で現場に入って、お仕事をする中で
お年寄りが好になり、高齢者介護のお仕事が楽しくなっていったので、
高齢者福祉の経験のない学生さんからみたら、それはそうかも…と少し思います。

ちなみに私は、⑤福祉組織経営(人材育成)を専攻する予定です。
実はこのコースがあるのでトロント大学を進学先として選んだのです。
が…、この専攻は最も希望者が少ないのです。
100人くらい同じ学年の同級生がいるのですが、誰一人としてこの分野を専攻したいという人に出会った事がありません…。
まあ、これは福祉系の仕事に3年以上就いてないと専攻でない決まりなので、
当然と言えば当然なんですが…。
そして実際に現場で働いてみないと、この領域の勉強の必要性は分かりませんし。

なぜ私がこの分野を専攻しようと思ったかと言いますと、
今の日本社会で支援に携わるスタッフや介護職員の直面する様々な問題、
例えば、スタッフのバーンアウトやメンタルヘルスの問題、高い離職率と人材不足、
スタッフや指導者への教育の不足などを将来的に少しでも解決するために何かをしたいと思ったためです。

ちなみにこの、福祉組織経営(人材育成)専攻のクラスは、
MSW(*Master of Social Work)を持っている人向けのディブロマコースと合同の授業なんです。
ソーシャルワーカーとして現場で働いてる皆さんと、少人数のクラスで議論をするのは楽しみです。

そうそう、授業では繰り返し「自分の特権とパワー(権力)について自覚しろ!」ということ
が言われます。でも「特権」って一体…?
それに関してはまた次回、お話したいと思います。
 
 
ソーシャルワークタイムズ  vol54 2015.1.25より転載
 
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「子連れソーシャルワーク留学 in カナダ 〜あなたの「特権」は何ですか?〜 」

 

私が今通っているカナダの大学院の授業では講義は少なく、ディスカッションが主な内容です。
宿題になっている文献を基に様々なテーマで議論するのです。
理論や方法論を知ることは求められていますが、中間期末試験も暗記をしたり選択方式のテストではなく
自分の考えや学んだ内容をレポートに書いてまとめることが求められます。

今まだ1学期を終えただけですが、印象的だったのは、どの授業でも徹底的に多様性の尊重、
自己覚知(自分の価値観、社会的位置を知る事)や、差別や社会問題を解決していく姿勢、
社会を変えていく姿勢、支援するとはどういうことか、支援する側(自分)の影響力について学びます。

特に「自分の持っている特権とパワー(権力)について自覚する」という考え方は、
なんども繰り返し、徹底的に叩込まれるといった感じです。

実はトロントの人口の約50%はカナダ以外で生まれた人です。
クライアントの多くは、インターセクショナリティー(様々な社会的差別の交差性)の中におり、
複雑な問題を抱えています。
人種や民族、宗教、ジェンダー、年齢、家族形態、職業、LGBT等の性的マイノリティなど属性による
差別や困難、貧困、言語の問題、教育格差の問題などなど。

そんな中で、ソーシャルワーカーとなる者には自分の「特権」を自覚することが求められます。

「特権」とは、例えば…
大学や大学院に来られること、英語(や他の言語)が話せること、
白人であること(なんだかんだ言ってもまだ白人が有利な社会です)、出身地、
宗教(キリスト教が多数)、職業、ソーシャルワーカーという立場、そして社会的地位、経済的地位、などなど。
社会や世界の中で、どのくらい有利な立場に自分がいるのかを、自覚的にならなければいけないということです。

そして、これらの「特権」を持つソーシャルワーカーは「権力(パワー)」を持ちます。
この権力がクライアントとの関係性や介入にどのような影響を及ぼすかについても自覚的になることが必要です。

それ以外にも、自分にとって抵抗があるクライアントはどのような人か?何が自分の心理的トリガーになるのか?
クライアントに対してジレンマを抱える時があるか?自分のどのような価値観や経験がそれらを引起こしているのか?などなど、徹底的に自己分析をさせられています。

積極的に移民、難民を受け入れている「カナダ」という国、そして多民族が集まる「トロント」という地域だからこそ、と言えるかもしれません。しかし、日本でもっと活かすことがでる視点であると信じています。

なぜなら、ソーシャルワーカーはクライアントに対して「支援をしてあげる」人ではなく、
クライアントが元々持っている力を引出したり、取り戻すため、少しだけお手伝いをする役割だと私は思うのです。
そして社会と個人の橋渡しをする役割もあります。
だからソーシャルワーカーはクライアントの問題を解決するだけではなく、
問題の根本である社会を変えるという役割も持っていると信じています。

でも時々くじけそうになるから、支援者を支える人が必要なのだと思っています。

それでは今回はこの辺で…。

 

ソーシャルワーク・タイムズ  vol55 2015.1.28より転載

 
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名前:(にいずみ)
ライタープロフィール:
国際基督教大学卒業後、民間企業にて勤務。大学院修士課程修了後、介護福祉士として
認知症専門デイサービス、訪問介護、女性を支援するNPOの事務局、専門学校講師などに従事。
介護職や支援者への支えが必要なことを感じ、日本財団国際フェローシップの支援を受け、
現在は子ども2人を連れてカナダのトロント大学大学院にソーシャルワークを学ぶため留学中。
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