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【オピニオン】優性思想という亡霊に立ち向かうために

18 9月 , 2016,
SCAスタッフ
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kaneko


皆さん、こんにちは。SCA理事の金子充です。
 
平成28年7月26日未明、神奈川県相模原市の障害者施設で、非常に衝撃的な事件が起きました。あまりにも衝撃的な事件で、しばらくの間、自分の中から湧き上がってくる感情や考えをうまく整理することができなかったのですが、社会福祉を仕事にしている人間として、黙って見過ごしてはいけない何かを感じたため、この文章を書きました。

 
この事件では、容疑者が、過去に自分が職員として働いていた障害者施設の入所者を包丁で襲い、19人を殺害、26人を負傷させました。犯行前の平成28年2月、犯行予告とも受け取れるような直筆の手紙を、衆議院議長公邸を訪問して公邸職員に渡しており、手紙の内容は、テレビやネットでも公開されました。
 
社会的に最も弱い存在である重度障害者が、施設の元職員に19人も殺害されたという事実にまず戦慄しましたが、私が一番動揺し、不安を感じたのは、この手紙の内容でした。手紙には、「私は障害者総勢470名を抹殺することができます。理由は世界経済の活性化、…。」「私の目標は、障害者の方が保護者の同意を得て安楽死できる世界です。」等の文章が並んでいました。
 
 
この事件がきっかけとなり、新聞やテレビでも報道されるようになりましたが、容疑者が手紙に書いたような考え方は、優性思想と呼ばれます。簡単に言うと、「障害や遺伝性疾患を持っていない遺伝子的に優秀な人にだけ生きる価値があり、そうでない人は、生かしても仕方がないので淘汰されていくべきだ」というような思想のことです。
 
1933年にドイツで政権を握ったナチス党は、この優性思想に基づいてT4計画という計画を作り、精神障害者や遺伝性疾患を持った人達をガス室で殺害するという政策を実行しました。約20万人の障害者が殺害されたと言われています。そして、その際に使用されたガス室は、その後のユダヤ人大虐殺にも使用されたため、T4 計画はユダヤ人大虐殺の予行演習だったとも言われているそうです。
 
このT4計画については、平成27年夏に、NHKのETV特集で、「それはホロコーストのリハーサルだった~障害者虐殺70年目の真実」というテレビ番組が放映されています。日本障害者協議会で代表をされている藤井克徳氏がドイツを訪れてT4計画の痕跡をたどり、犠牲になった方の家族や関係者に当時の話を聞いていくという内容でした。
 
 
この容疑者の手紙の内容を目にして、私は優性思想が今後の日本社会で再び根をはり、拡大していくのではないかという不安に襲われました。
 
日本では、過去にもハンセン病の人達を強制的に隔離したという形で、優性思想が政策化されていたことがあります。そして今の日本は、生産性こそが最高の価値であり、たくさんのお金を稼げる人は価値があり、生産性が低く、お金を稼げない人には価値がないという考え方が多くの人達の間で共有されているのではないでしょうか。この生産性至上主義的な考え方と優性思想は、非常に親和性が高いのではないかというのが私の感じている不安なのです。生産性至上主義が日本で価値観としての強度を増し、同時に社会の経済的余裕が失われていく時、優性思想は再びどこかから出現し、日本の社会福祉に襲いかかってくるのではないかという気がしたのです。
 
ここで私は、皆さんに問いたいと思います。この優性思想が時代の空気とともに再度日本で噴出してくるようなことがあった時、皆さんはそれに対抗できるロジックを持っていますか?
 
社会福祉の根拠として、人間の尊厳、人権といった概念があります。日本国憲法にも、生存権、幸福追求権といった概念が確立されています。しかし、人権という概念は、西欧から輸入された概念で、日本人が自ら作り出した概念ではありません。日本人は、人権という概念を本当の意味で内面化しているようには思えないのです。さらに現在、日本国憲法についても改憲の議論が起きており、生存権や幸福追求権が今後どのように変わってしまうかわかりません。
 
そのような中で、社会福祉の根拠をどのように説明することができるでしょうか。社会的弱者を包摂した社会を作っていく必要性を、どのように説明すれば多くの人に納得してもらえるでしょうか。
 
 
今回の事件に関して、上記のETV特集に出演されていた日本障害者協議会の藤井克徳氏が、下記に紹介する動画で、上記の問いに対する1つのヒントを提示して下さいました。藤井氏は、ナチスのT4計画と絡めて、優性思想を政策化した社会は、「弱者探しの連鎖」(動画23分の辺り)に陥るのではないかとおっしゃっています。
 
「弱者探しの連鎖」という言葉から私が想像したのは、「社会的弱者を亡き者にするような社会は、人間の弱さを許容できないという、ある種の脆弱性を抱えた社会であり、長く存続できずに崩壊するのではないか」ということでした。これは、ナチスドイツがたどった運命から言えるのではないかと考えました。このことが一般化できるかどうかは検証が必要ですが、これも社会福祉がなぜ必要なのかを説明する1つのロジックです。
 
社会福祉は、社会の要請に従って現在の形になってきました。しかし今、社会そのものがものすごいスピードで変化しています。変化する社会の中でも通用するような、社会福祉の必要性を端的に説明するロジックを、私達は自分達で生み出し、繰り返し社会に提示していく必要があると思います。
 
≪参考動画≫
(ゲスト)藤井克徳氏(日本障害者協議会代表)
(アクセス日:2016/8/6)
 
*『ソーシャルワーク・タイムズ vol.135 2016.8.14』掲載分を転載いたしました.
 
 
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【プロフィール】
 
金子充
40代のミドルエイジ。精神保健福祉士、社会福祉士。
SCA理事。現場経験12年目。見た目は穏やかだが、ハートは熱い。
ソーシャルワーカーの職場環境が悪いことを実感し、何とかしていきたいという思いを持っている。
SCAのメンバーとなったことで人生が変わり、妙にエネルギッシュな身体を手に入れた。
【ブログ】
http://tsurumitsu03.blogspot.jp/
【過去のSCAのインタビュー記事はこちら】
http://goo.gl/Sx66d8
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