弊法人メールマガジン「ソーシャルワークタイムズ」にて連載中の外山容子さんによる「ハワイ大学でソーシャルワーク」の過去記事を掲載いたします。外山さんはソーシャルワークを学ぶためハワイ大学に留学中。ハワイの文化や社会福祉サービスの現状、そして大学院での学びの共有をしていただいています。最新号を読みたい方はぜひ、ソーシャルワークタイムズ購読をお願いします。
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前回は、ホームレスの人々に対するNPOの支援について書きました。今回は、反対に、ホームレスの人に対する厳しい対応について書きたいと思います。
2014年の9月に、ホノルル市は、ワイキキの商業区域で歩道に寝転んだり、座り込んだりする行為と、オアフ島全域を対象に公共の場所での排泄行為を禁止する法律を可決しました。事実上ホームレスの人を対象にした法律です。観光産業からの安全と衛生を配慮を求める要望が背景にあるようです。同年12月には、対象区域が官公庁が集まるダウンタウンと、チャイナタウンに拡大されました。以前お話したようにダウンタウンとチャイナタウンは多くのホームレスの人が歩道で生活している区域です。警察が巡回し、発見した場合には勧告し周辺のシェルターの情報などを提供します。違反した場合は、最高1000ドルの罰金および最長30日の収監の刑に処せられます。
社会的に対応策が確立されていない課題にたいして法律で規制し、法律に沿わない者を違反者・犯罪者とみなすことについては、学校の授業でもよく扱われます。規制して社会の主流から排除するのではなく、自立を促す支援も可能なのではないかという問題提起がなされます。ホームレスの課題以外にも、薬物乱用者や児童虐待や、ドメスティックバイオレンスの加害者などについても、違反者・犯罪者として処罰に終始するのではなく、ケアを必要としている対象として接し、薬物や暴力の依存からの脱出を支援するという視点を学びます。
次回は、私の実習で、ホームレスのクライアントを訪れた経験をお話ししたいと思います。
参考
http://www.kitv.com/news/honolulu-city-council-passes-5-controversial-homeless-bills/26689366
http://www.kitv.com/news/sitlie-expansion-signed-into-law/30024736
ソーシャルワーク・タイムズ vol67 2015.4.26より転載
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・『ハワイ大学でソーシャルワーク--住まいの貧困:「ホームレス」の「ホーム」とは--』
前々号の配信では、ホノルルのホームレスの人々に対する行政の排除的な姿勢ともいえる政策を書きました。今回は、実習先での経験を元に、新しいホームレスのとらえ方についてお話したいと思います。
実習で、ホームレス状態のクライアントのテントを訪問したことがありました。そのクライアントのテントは、キャンプで用いるテントが歩道の片側にずらりと立ち並んだ区域にありました。クライアントのテントの中には、乾物や調味料、鍋が並んだ棚、小さな机と椅子、寝床がそろっていました。他にも、鏡がかけてあっていたり、机と椅子はテントの入り口側、寝床は奥に配置してあったりと、4~5畳ほどの広さの中にキッチン、リビング、寝室の役割が成り立っていました。想像していたよりも、「家」らしく機能的で清潔な住まいに驚きました。
勧告したにもかかわらず立ち退かないテントを、警察は強制的に一掃します。その際に、自分で確保できなかったものは、失われます。身分証明書や社会福祉サービスの受給資格証明書、医師との診断証明書などの重要書類が失われると、福祉サービスの申請・更新時に支障が出ます。他には、薬や入れ歯が失われた場合、健康に影響を及ぼします。ホームレスの人はうつ病や統合失調症など精神病を患っていることが多く、定期的な服薬が重要です。入れ歯は、健康の基本である咀嚼に欠かせません。またいずれも、入手するにはお金や労力が必要です。私の実習先のインストラクターも、自分が手伝ってようやく入手した書類がなくなってしまったことがあったと、肩を落としていました。
ただ、警察が一掃しても、翌日にはテント郡は元通りになっていると、テント郡の近くの大学に通う、実習の同僚は話していました。そもそも、テント郡の一掃はどれだけ有効なのでしょうか。私の通うハワイ大学での授業のひとつに、マクロレベルやコミュニティでのソーシャルワークを扱う授業がありました。その最終グループプレゼンテーションでは、学生はチームを組んで、実在のコミュニティを選び、分析した結果を発表しました。あるチームの発表は「テントコミュニティ」について。テントコミュニティとは、既存の住居の概念に沿った「ホームレスかどうか」という線引きから離れ、テントでくらす人々を一つのコミュニティとしてとらえる考え方です。
そのチームは実際にテントコミュニティを訪問していました。テントコミュニティでは、子どもを含めて複数の家族が暮らしており、小さな社会が成立しています。シャワーがなかったり、テントには嵐に耐えるほどの強度がなかったりなどの居住環境については課題が多くあります。一方、自転車の修理など、さまざまな小規模のビジネスが存在し、相互の支えあうつながりはコミュニティの強みとしてとらえられます。「ホームレスの集まり」というとらえ方では、テント郡に住む人々は問題であり排除の対象となりますが、「テントコミュニティ」として再定義すると、コミュニティとしての強み、および、その強みにそったソーシャルワークのアプローチを見出すことができます。
4回にわたりお話した、ハワイの住まいの貧困:ホームレスの課題は、今回が最後です。観光地ハワイとは違う側面と、それに対するいくつかの取り組みについて、読者の皆様に少しでもお伝えできたなら幸いです。
ソーシャルワーク・タイムズ vol69 2015.5.10より転載
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・『ハワイ大学でソーシャルワーク--【全4回】
今週から全4回で、私が先学期に受講した、Macro Practice of Social Workという授業についてお話したいと思います。
読者の皆様が、ハワイ大学での授業内容や、
私が在籍する2年間の修士課程の1年目は、
本題に入る前に、
1回の授業は2時間半です。えぇ、長いですよね。ただ、
さて、このMacro Practice of Social Workのクラスでは、マクロという言葉が意味する通り、
ソーシャルワーク・タイムズ vol72 2015.5.31より転載
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プロフィール
外山容子(とやまようこ)
2009年、国際基督教大学国際関係学科卒業。
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