【寄稿】「ソーシャルワークは誰のものか?」兵庫医科大学 大松重宏准教授

 
kyouzyu

寄稿「ソーシャルワークは誰のものか?」兵庫医科大学 大松重宏准教授

SCA一周年おめでとうございます。

私がソーシャルワーカーになって30年が過ぎます。現在は医学部にお
いて、社会福祉の視点で、医療制度等の狭間にある患者さんの生活課題
について医学生に理解を深めてもらう目的で講義を担当しています

現役を退いていますが、30年たって思うことは、年齢や経験年数、あ
るいは働いている領域が違っても、社会福祉を共通基盤に仲間同士で
支え合うことに意味があるということです。恥ずかしいのですが、この年
齢まで余りそれを感じていなかったように思います。つまり、良き先輩、
同僚、後輩に自分は支えられているのだ、という自覚が欠如していたの
です。多くの方々にお詫びしなくてはなりません。いま心から、仲間を
支えたい、また、自分も支えて欲しいと思っています。そうでないと力
が湧かないし、新しい発想は生まれてこないように思えてなりません。

長く医療機関でソーシャルワーカーとして働いていると、どこで頑張
り、どこで手を抜くのか、言い換えるならば効率的な組織内、地域内で
のパフォーマンスが判ったような気になります。ある意味、評論家のよう
でもあります。しかし、すべて幻想であることに気がついたのは最近の
ことです。そのような立ち位置を獲得することが成功であるかのように
勘違いしていました。もしかすると、私のようなソーシャルワーカーは少な
くないのかも知れません。

激動の現代、ソーシャルワーカーは活動拠点を地域に移さなくてはな
らない時代になったのではないでしょうか。誰も援助の手を差し伸べ
ることのない、また自分自身で声を上げることができない人たち、ある
意味、接近が困難と思われる地域の人たちへ、私たちの実践から得た
知恵や工夫で、アウトリーチしなくてはならない時代になってしまって
いるのです。

対人援助職の中で、特に自分の立ち位置を得て認知されている人
たちは、そのような場には絶対に近寄らないではないでしょう。いま、
私たちソーシャルワーカーがそこにある課題に、どのように接近し支援
を組織するのかを視覚化しなければ誰がするのでしょうか。

このような時代にSCAが誕生して、一周年を迎えたことを大いに歓迎
しています。SCAに集う仲間たちの活動を地域が求めています。混沌と
した地域の中にある生活課題にソーシャルワーカーの手で解決の方
性を見出して欲しいと切に願います。そして、それが達成されれば多
くの対人援助職が参入します。その時は、新たな活動の場が皆さんSCAに
集う仲間たちに与えられます。その繰り返しが、ソーシャルワークを発
展させます。

我々のためにソーシャルワークがあるのではないことを熟知した上で、
パフォーマンスを地域に向けましょう。皆さんのためによりソーシャルワ
ークを発展させられなかった先輩として反省と謝罪と込めてSCAの仲間
へエールを送ります。

…………………………………………………
 
兵庫医科大学 大松重宏准教授
 
大松教授のページ(兵庫医科大学HP)
 
…………………………………………………