【特別インタビュー企画】『全ての子どもたちが社会全体から愛され育つ社会を目指して-認定NPO法人 3keys 代表理事森山誉恵氏- 』

<特別インタビュー企画>
『全ての子どもたちが社会全体から愛され育つ社会を目指して-認定NPO法人3keys代表理事森山誉恵氏- 』
社会福祉領域の先駆的な取り組みをされている方々にインタビューを行う特別企画の第二弾。
認定NPO法人3keysは学習支援事業、啓発活動事業、子どもの権利保障推進事業を行っています。事業を通して見えてきた課題に対してより丁寧に関わるため、今般、子ども支援職員(ソーシャルワーカー)を募集しています。
団体の理念や事業、事業を通してみえてきた日本の子どもたちが抱える課題、ソーシャルワーカーに期待する役割などについて、代表理事の森山誉恵さんにお話を伺いました。
(聴き手:代表理事 横山)


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代表理事の森山さん

―― 団体の理念、事業概要についてお聞かせください。
(森山)3keysは学習支援を行う任意団体として2009年にスタートし、2011年にNPO法人として法人登記をしました。

活動は主に3つです。1つめは、大学生や若い方たちが児童養護施設などに足を運び、虐待で保護された子どもたちに勉強を教える「学習支援事業prêle(プレール)」です。
東京や神奈川にある児童養護施設、母子生活支援施設、自立援助ホームと連携し、虐待等の理由で児童養護施設などに入所している中高生の子どもたちを対象に、施設では不足している学習面のサポートを、私たちの法人がボランティアを養成、派遣して、個別のケアを担っていくということを行っています。
2つめは「啓発活動事業 伝える・変える」です。支援を通じて出会ったこどもたちからみえてきた虐待や貧困という社会問題をセミナーや研修を通して発信をしています。
3つめは、「子どもの権利保障推進事業vine(ヴァイン)」です。啓発事業を行うなかで、2、3年前から自分自身が虐待を受けている、他に頼れる人がいないなど、子どもたちから直接相談がよせられるケースが増えてきました。当初は、私たちは相談支援の専門ではないので、専門機関に繋いだりしていたのですが、子どもたちにとっては専門機関はどこも一緒に見えるという現状があったり、繋ぐということ自体も難しいと感じることがたくさんあり、3つめ事業をスタートしました。
子どもの権利保障推進事業vine(ヴァイン)では、子どもでも分かりやすく、自分に必要な支援団体や信頼できそうな支援団体を自分で見つけて相談や予約が簡単に出来るように、子ども向けの支援機関がまとまったポータルサイト「Mex(ミークス)」を運営しています。昨年度は、推定25,000人の10代の方が利用したというデータが取れています。
加えて、相談窓口も開設しています。私たち自身に子どもたちから相談が来ることもあるので、専門家と相談しながら、私たち自身が話を聞くという体制もとっています。昨年は40名の子どもさんからの相談に対応しました。

3keys ホームページより


(横山)子どもたちから寄せられる相談は何名体制で対応されていますか?
(森山)窓口となる職員が話を聞いたり、必要に応じて弁護士などの専門家に相談しながら支援していますが、少人数での運営なので人手が全然足りないと感じています。大々的に相談窓口を開いているというよりは、相談できる先がどこにもなかったり、私たちとの関係性があるため3keysに相談したいなど、私たちでないと相談できないというお子さんがいるかも知れないので、細々と開けています。
メールで相談できる、匿名性も高いということもあって、ほとんど告知していないのに相談が絶えません。気軽に相談できるところ多くなかったり、もしくは知られていなかったりするんだなと感じています。
(横山)公の機関だと、メールでの相談に対応していなかったり、17時までで閉まったりするところがほとんどですものね。

(森山)そうですね。

(横山)昨年は40名の相談があったとのことですが、差し支えない範囲でどのような相談があったかを教えていただけますか?
(森山)8割9割は話を聞いてほしい、自分の考えを整理したくて相談が来るケースが多いです。匿名性が守られているほうが相談がしやすいためか、名前も性別も言わずにメールで相談が来ることがほとんどです。
例えば学校でいじめに遭っているとか、親が自分を大事にしてくれないとか、自分は価値を感じないから死にたいとか、誰かを傷つけたい衝動にかられるとか、そういう人には言えないことを打ち明けてくる子が多く、自分が今困っていることや誰にも言えていなかったことを、とにかく吐き出したい、誰かにわかってほしいのだと感じます。解決策を求めているというよりも聞いてほしい、分かってほしいという相談に対しては、相談援助の基本かもしれませんが、まずは聞くに徹します。
残りの1割の相談はより具体的な内容です。児童相談所に虐待されていることを相談したけれどうまくいかず、他を紹介してほしい、ですとか、住まいがないので住めるところを教えてほしいとか、緊迫した、すぐに解決してほしいことを抱えているケースは、本人の了承が得られれば、本人と会ったりして、解決を担っていくということもあります。
(横山)メールは相談をする側にとっては相談しやすい反面、相談を受ける側の方の難しさもありますよね。
(森山)ありますね。相手の顔が見えないですし、性別も年齢もわかりません。性別や年代を書いてもらうようにはしていますが、必須ではありませんし、正しいかどうかも分かりません。
電話だと”声”から情報が得られますが、メールは相手に関して得られる情報が電話より更に少ないです。だから子どもたちも相談しやすいし吐き出しやすいのですが、やはり相談を受ける側のハードルは高まります。ですので、団体としても専門性を高めていかないといけないと思っていますし、出来るなら専門性の高い団体に繋げていきたいと思っているのですが、そういう団体はまだまだ少ないという業界全体の課題があるので、私たちでも受けられる相談をまずはしっかりと受けていこうと思っています。

”すべての子どもたちにセーフティネットを”

――3keysさんの現場で子どもたちからどのような相談が寄せられるかをお聞かせいただきましたが、このたび、子ども支援職員、ソーシャルワーカーを採用しようと思われた理由をお聞きかせください。
(森山)理由は2つあります。1つは、寄せられる子どもたちからの相談を受けたり、専門機関に繋ぐところを担ってもらいたいということ。大人であれば自分が支援を求めるときにどういう団体か吟味し、自分に合ったところに相談できるかもしれないですけど、子どもたちの多くはそういった吟味が難しい場合が多く、信頼できるなと思える団体を見つけるのも大変です。

2つめは、施設の外で学習支援事業を行っていきたいと考えているため、よりソーシャルワークの力が必要だと考えているからです。
今までは、施設に入所しているお子さんメインにサポートしていたのですが、私たちが活動をはじめた頃に比べて施設での学習支援は充実しつつあります。
施設を退所して家に戻った後や、そもそも施設に入所していないお子さんの方が支援が足りなくなってきている現状があります。施設を退所した後も、施設に来れば今も学習支援はしているのですが、施設の近くに住んでいないお子さんや、虐待や育児放棄等で行政などの支援からも漏れているお子さんたちにも、学習支援を広げていきたいと思っています。
そうすると、今までが学習支援は私たち3keys、生活面や心のケア、ソーシャルワークは施設の職員という役割分担ができていたのですが、施設退所後や、さまざまな支援から漏れているお子さんが支援の対象に入ってくる可能性が高いと考えています。ですので、私たち自身もソーシャルワークの力を付けていかないといけないと思っています。施設の外で、学習支援を行う場所については、すでにある資源を活用して、安心・安全が保たれる場所で行う予定としています。
(横山)施設を退所した後や、支援の網から漏れているお子さんに情報やサポートを届けるというところについて、ソーシャルワーカーに担ってほしい機能はありますか。
(森山)3keysが今までの支援の中で培ってきたネットワークの中で、実はニーズがあった子どもたちをみつけ、学習支援を届けていくながれをつくるのも支援職の仕事にもなっていくと思います。

子どもの支援団体はいくつもありますが、全ての団体が学習支援を行っているわけではないので、他の支援団体から子どもたちをつないでもらったり、施設と連携して施設を出るタイミングで情報提供をしたり、児童相談所とも連携し、適切なタイミングで子どもたちに知ってもらったりできるようになるとよいと思っています。

――日々、どのような団体とどのような目的で連携、協働をしていますか?
(森山)学習支援で一番連携しているのは、児童福祉関係の施設です。他には児童相談所や他のNPO団体です。事業の性質上、3keysは個人情報の保護をかなり厳しく行っていますので、そういう点に安心感を覚えてくれる団体がいるように感じます。

子どもの権利保障推進事業では、こどもたちから受けた相談を必要時、専門性の高い団体を私たちが繋ぐことを大事にしています。若い職員が多く、ITにも強いという強みを活かしてポータルサイト「Mex(ミークス)」をつくったり、子どもたちをオンラインからも専門機関に繋ぐことを担っていこうとしています。
例えば、虐待を受けている子どもは、虐待にだけ悩んでいるのではなくて、いじめにも遭っていたり、相談できる人がいなかったり、性の問題も抱えていたり、犯罪にも巻き込まれやすかったりするなど、いろいろな二次被害が起きやすいのが虐待・貧困の子どもたちの現状だと思っています。
ですので、性の相談や犯罪被害の相談が出来る団体について、「Mex(ミークス)東京版」では官民と連携して、約60サービスくらいの情報を掲載しました。さまざまな専門性をもつ子ども支援団体と連携していくことが大事だと思っています。

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わかりやすいようカテゴリ化されています。

「Mex(ミークス)東京版」

(横山)官民60団体との連携構築は、とても骨の折れる作業だったのではないですか?
(森山)まずは情報を掲載させてもらうということなので、やりとりがものすごくあるわけではありませんでしたが、信頼できる団体かどうかを審査をしたり、行政は情報を掲載させてもらうまでが大変でした。
(横山)今後、「Mex(ミークス)東京版」以外に、他の都道府県版をつくっていく計画はありますか?
(森山)今準備をしていて、6月末に全国版がスタートする予定です(本記事公開時にはスタート済)。オンラインだと、各地にある専門機関と繋がれば、比較的広げやすいということもありますので、早めに拡大したいという思いもあります。
横山)「Mex(ミークス)全国版」に掲載される予定の支援団体の数はどのくらいですか?
(森山)目標は今年度中に各都道府県5サービスで、全国計250サービスです。自治体が実施しているものは利用が地域に限定されますが、電話やメール相談をおこなっている団体は、地域問わず相談対応をしてくれるところもありますので、各都道府県5サービスごとの登録を目指しています。
(横山)全国の機関に働きかけていく大変さがあったのではないかと想像します。
(森山)大変ですね。今年度は啓発活動を東京だけでなく大阪や福岡でも出来ればと準備をしているのですが、全国の支援団体との信頼関係の構築も今年度の課題です。私たちの団体のことを知らない団体が多いと思うので、啓発活動も行いながら、全国計250団体の登録を目指していきたいと考えています。
(横山)大変そうですが、とてもやりがいがありそうですね。全国の支援団体としても、「Mex(ミークス)全国版」に情報を掲載することで、自分たちの団体の支援を必要としている人に届ける事ができる方法が増えるでしょうから、3keysさんと協働したい思われるのでしょうね。
(森山)そうだとよいと思います。私たちの方で各サービスごとにページを作るので、これまで子どもに向けたホームページを持っていなかった団体さんには是非活用していただきたいと思っています。
(横山)各団体の情報発信力を補完するという意味もあるんですね。
(森山)各団体さんの広報力のお手伝いをすることで、子どもたちが団体にたどり着きやすくしていく。業界全体の広報力の基盤を底上げしていかないとと思っています。
(横山)「Mex(ミークス)」は相談援助の仕事をしている人にとっても社会資源になりそうです。
(森山)スクールソーシャルワーカーや学校の先生にも使ってもらえるのではないかと思っています。あとは企業が自分たちが支援したい団体を見つけるために使っている、ということも聞きました。そういった活用の仕方もあり得るかなとは思っていましたけど、結構早くそういった声は聞かれました。
(横山)3keysさんでソーシャルワーカーとして働く場合には、「Mex(ミークス)全国版」に掲載する団体とのネットワークづくりを担ったりもするのでしょうか。
(森山)もちろんあります。
(横山)3keysさんという団体に身を置くことで、子どもたちへの個別のサポートや、そのために、その子どもたちをサポートするための社会資源とも繋がりつつ、かつ、全国版の社会資源を作るというところにも関われるのですね。
(森山)マルチワークで大変ですが、是非やってもらいたいです。

(横山)福祉畑の経験だけでは大変そうですが、色々鍛えられそうな現場であると感じます。
(森山)そうですね。色々やりたいという方が来ていただけるとありがたいです。

――3keysの職員のみなさんが、子どもに関わる上で大切にされている価値観や考え方についてお聞きかせください。

終始穏やかにお話くださいました。

(森山)大事にしていることはたくさんありますが、その中でも一番大事なのは余裕をもつことですかね。余裕があることよって、相手の立場を思いやったり想像出来たりすることはすごく大事なことだと思っています。
私たちが出会ってきた子どもたちは、大人や社会を信頼していない子が残念ながら少なくありません。自分が思っていることを素直に言える経験、言っていいという成功体験がない子が多い分、分かりやすく表現してくれる子どもの方が少ないですし、それに寄り添うためには大人の方が余裕を持っていないとかなり難しいと感じています。
ですので、3keysではワークライフバランスを大切にしています。職員は、基本的に火、木、土以外は在宅勤務です。ですので子育てや他の趣味などとの両立もしやすいと思います。ただ、子ども相談員は子どもと出会うために水金も多少出勤はあるとは思います。これは団体としての強みでもあります。平均残業時間も5分,10分です。福祉や教育はすごく忙しい現場になりやすいですので、変えていかないといけないと思っています。

困っている子どもたちが山ほどいるのは知っています。だからこそ、私たちだけで抱えない、本当に私たちだけにしか出来ないことを見極めてやっていくというのも大切にしています。自分一人だけで抱えない、しっかり連携をし、さまざまな専門機関の力を借りるという発想は欠かせません。
ですので、人に頼り上手でありながらも、自分にしか出来ないことをしっかり考えられる方、かつ専門性もある方、という欲張りな求人をしています(苦笑)

――本記事を読まれている、ソーシャルワーカー、対人援助職に一言お願いします。
(森山)虐待を受けた経験のある子どもたちや虐待の背景に貧困がある子どもたちと現場で出会うなかで、子どもたちが自立できる力を養えるかどうかということは、子どもの意思や能力以上に、生まれ育った環境が大きな影響を与えるということを強く感じています。

昔に比べ地域関係がより希薄になるなか、さまざまな理由で家族が担うことが難しいことを、担える人たちを増やしていかないと、社会の格差が広がっていくと感じ、生まれ育った環境によらず愛情や教育、さまざまな支援や社会資源が子どもたちにしっかり届いてほしいという気持ちで活動しています。子どもにとって”今”必要なものをなるべく早く作っていきたいという気持ちや柔軟性はすごくある団体だと自負していますので、是非一緒に作り上げていくのを手伝ってほしいと強く思っています。

――最後に、今後の3keysさんの事業展開についてお教えください。
(森山)これからやりたいことはたくさんあります。子どもは自分一人で悩みを1つ1つ綺麗に切り取って、それぞれの悩みに一番合った団体に相談するというのは難しく、全てに困っていたり、何に困っているかも分からないということが多いので、やはり子ども支援の分野は、縦割りや垣根みたいなものを、限りなくなくしてワンストップにしていかないといけないと思っています。
行政はどうしても、その市区町村にいる子でないと相談を受けないとか、部署によって対応できる範囲が決まっていたりとかするので、まずは民間からその垣根をなくしていきたいです。「Mex(ミークス)」でオンラインのワンストップ相談の入り口となる場所をつくりました。次はオフラインのワンストップ相談の仕組みをつくっていきたいと考えています。オンラインよりもハードルは高いですが、いつかそういう場所をつくりたいという野心はあります。
(横山)森山さんのその野心をともに燃やせる人が来るといいということですね。

(森山)よい方が来てくれれば、事業が走り出すのも早くなるので。是非!


 

 

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▼森山誉恵(モリヤマタカエ)
慶應義塾大学法学部卒業後、子どもたちの生まれ育った環境に寄らず必要な支援が行き届くことを目的としたNPO法人3keysを設立・現代表理事兼職員。東京都共助社会づくりを進めるための検討会委員。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会幹事。現代ビジネスでの連載をはじめ、子どもの格差の現状を講演・執筆・メディアなどで発信中。


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