日本において、社会変革を志向する
マクロソーシャルワーク実践が乏しいのはなぜでしょうか?
ソーシャルワークには,グローバル定義の通り,個人の問題解決だけではなく,社会変革も実践の範囲に含まれています。
社会的に排除され、孤立状態にある人たちへの支援においてはミクロソーシャルワークだけではなく、社会的排除を生む構造、メカニズムに少しでも影響を及ぼすことを考えたとき、社会変革を志向するマクロソーシャルワークが必要であることは明らかですが、日本において、そのような実践は稀少です。一体どうしてでしょうか?
私たちは以下3点を、その仮説として考えています。
⑴ソーシャルワークの国際定義と、社会福祉士、精神保健福祉士の法的定義の乖離
日本におけるソーシャルワークに関する資格には社会福祉士と精神保健福祉士がありますがが、両資格の根拠法において、以下のように定義されています。
両資格に共通するのは、『個人を対象とした「相談援助」を業とする者』という記載です。ソーシャルワークのグルーバル定義に比べると国内の両資格の定義は、対象を狭めていると言わざるを得ず、両資格においてマクロソーシャルワークは前提とされていないとも読み取ることができます.
⑵養成課程や現任者教育の内容
前述した職業定義の問題以外に、マクロ・ソーシャルワーク実践の展開を妨げるものとしてスキルの問題が挙げられます。
以下は、ボストン大学の修士課程、マクロプラクティスコースの科目です。日本の社会福祉士や精神保健福祉士の養成課程のみならず、大学院においても学ぶことのない科目が並んでいます。欧米においては、マクロプラクティスのコースは就職先が多くない等の問題はあるようですが、テキストもまとめられており、体系的にスキルを学び、習得する環境は日本よりは整っていると言えます。
⑶日本におけるソーシャルワーカーの配置
3点目は、ソーシャルワーカーの配置の問題です。日本の多くのソーシャルワーカーは機関に雇用されているがゆえ、機関の役割に影響を受けることを避けることが難しい状況にあります。機関の役割と介入の焦点が何らかの関連をもたない限り、マクロソーシャルワークにおける介入方法は機関の役割に制限されるというのは前述した通りです。
また、日本における福祉系職能団体の組織率は低く、マクロソーシャルワーク実践におけるシステムとして稼働するには力不足が否めません。
吉永 清 (1976)『社会福祉概説』有斐閣より抜粋
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上記のように、日本の福祉系国家資格である社会福祉士や精神保健福祉士の多くは,法定事業を行う組織に雇用され実践を行なうゆえに,制度の対象にならないニーズを抱えている人に対し関わることが難しく,また,雇用されている組織の役割に実践が影響を受けやすいことが指摘されています.
加えて,法定事業の多くは,サービス利用において申請が必要であり,様々な理由により,申請という行為が難しい人たちに対して,支援を届けづらい,という現状があります(申請主義に付する課題についてはこちら).
⑷.独立型ソーシャルワーカーたちの実践
このような状況に対し,2000年の介護保険法成立以降,制度や組織に規定されない高い自律性を発揮することができるとされた独立型社会福祉士が出現し,法定外のニーズをもった社会的に排除された人々への支援を担う専門職として期待を受け,その数も増加しています.
しかし,小川(2013)は,独立型社会福祉士の黎明期から10年以上が経った独立型社会福祉士たちの実践について,社会的に排除された人たちへの対応や地域変革に向けた社会資源の開発・ネットワーキングが乏しいと指摘しています.
また,高良(2010)によって,独立型社会福祉士の多くが経済基盤が脆弱であり,経営の安定化のために成年後見制度や介護保険法や障害者総合支援法に基づくサービスなどの法定事業によって収益を得なければならない状況にあることや,低い社会的信用,個人活動による労力的時間的制約を抱えていること,リスクマネジメントや非倫理的実践を防ぐ環境整備の必要性等などの課題を有し,社会的に排除された人々への支援を担う専門職として,期待に十分に応えきれていない現状が明らかにされています.
上記課題に対する弊法人としてのミッション
弊法人は、独立して実践を行うソーシャルワーカーや、より広く社会に価値提供したいと考え兼業副業でプロジェクトに関わるソーシャルワーカーのチームで構成されています。
上記課題に対して、「日本における独立型ソーシャルワーカーのチーム」、「チームを支える組織の存在」が,「社会性と事業性を両立させ」,「社会的包摂範囲を拡張するマクロ実践を行うことに資するのか否か」という問いを立て、組織、チームの実践を通して検証していきたいと考えています.
誰ひとり排除しない社会をつくるために、事業活動を通して、社会のさまざまなシステムにソーシャルワークをプラスし、社会の包摂範囲を拡げていくことが、私たち組織のミッションです.
仲間も随時募集中です。以下のお問合せフォームから、ぜひご連絡ください。